画像は市立福山の優勝を映し出すマツダスタジアム大型映像装置
第108回全国高校野球選手権広島大会決勝(7月28日)
マツダスタジアムで決勝が行われ、市立福山が広島商を4対3で振り切り春夏通じて初の甲子園出場を手にした。
ともにノーシードで勝ち上がった両校。2005年の高陽東-三原以来、21年ぶりの公立対決は最後まで手に汗握る熱戦となった。
試合後、SNSでは「番狂わせ」の文字も踊ったが、その一言で片づけることのできないエピソードがこの一戦には織り込まれた。
1889年(明治22年)創部の広島商は以来、長らく広島野球をリードしてきた名門校。過去、夏は23度の甲子園出場で優勝6度、春も23度で同1度。直近の甲子園は2025年のセンバツで、その大舞台を経験したメンバーは3年生の中心選手として7年ぶりの夏切符を目指してきた。
春王者の第1シード・呉港を準々決勝5-3で退け、4連覇を狙った広陵を準決勝9-4で押し切った。
一方の市立福山。学校創立は1889年で広島商野球部と同じだが、野球部は1975年、カープ初優勝の年にスタートした。部員数57人は県内公立校では恵まれているものの、広島商の111人と比べれば大差がある。
市立福山にとって大きなトピックスは2022年の迫田守昭監督就任だった。広島商と広島新庄で春夏通算6度の甲子園出場がある名将。同じく広島高校野球界の代表的な存在だった兄・穆成さん(2023年12月逝去)に促され、県東部の公立校での新たな挑戦が始まった。
しかし2025年7月31日付で体調不良のため退任(当時79歳)となり、後任は長田功コーチ(当時27歳)が務めた。続いてこの春からは、やはり”甲子園監督”の小田浩監督(62歳)の下で春の広島大会(2回戦で市立呉に2-9コールド負け、26日の準決勝で4-3で振り切りリベンジ)、そしてこの夏、初の決勝へ進んだ。
小田浩監督は広島商3年夏に正二塁手として甲子園出場。順天堂大卒業後、西条農を2度甲子園に導き、当時から注目された存在だった。海田をへて、総合技術でも2011年のセンバツ大へ。その後は現場を離れ、今年3月までは、準決勝で倒した市立呉の校長だった。現在は福山市教育委員会に籍を置く。
今大会は準決勝、決勝ともマツダスタジアムで行われ、両校は2度、憧れの舞台で存分に力を発揮することができた。広島商の応援風景は素晴らしく、一方、地元からバス10台で駆け付けた市立福山のスクールカラー、フォレストグリーンに染まった。昨夏は準決勝、決勝とも電光石火きんさいスタジアム三次で開催された。
当然ながら、せめてベスト8からはマツダスタジアム開催固定化が望まれる。広島東洋カープは無条件、未来を目指す高校野球に広島市民球場の優先使用を認める必要がある。
……
市立福山 000 012 100・4
広島商 011 000 001・3
広島商・荒谷忠勝監督、市立福山・小田浩監督。広島商OBふたりによる決勝は、やはり100年を超える球史の中で紡がれてきた広島野球を代弁するかのようなせめぎ合いになった。
初回、互いに先頭が出て送りバントで一死二塁とした。ミラーゲーム…
二回、ヒット、バント、ヒットで一死一、三塁とした広島商が内野ゴロの間に先制した。二回の追加点もそう。四球、バント、ヒットの一死一、三塁で四番・名越貴徳の二ゴロが併殺崩れとなって2-0になった。
広島商の先発左腕、辻涼祐(2年)の184㌢の上背から繰り出されるカーブを打ちあぐみ、四回までノーヒットの市立福山は五回一死から、七番・柿窪斗磨(3年)がそのカーブを叩きつけてショート内野安打にした。この一打が突破口になり、二死一、三塁から一番・渡邉雄介主将(3年)の内野安打で1点を返した。深い位置のショートゴロで広島商・中本拓志主将(3年)も懸命に一塁へワンバウンド送球、間一髪のプレーになった。
8分間のクーリングタイム明け、六回が事実上の勝敗を決っするイニングになった。広島商は64球を投じた辻涼祐から10番をつけた同じく左腕の片岡虎士(3年)にスイッチした。
「後半勝負」(小田浩監督)のチーム方針でここまで勝ち上がってきた市立福山は、クリーンアップが、ここで一気にその牙を剥いた。
18番をつけた三番・西山結翔(3年)がボールカウント1-1からの変化球を中前打、続くDH・岩本大輝(2年)も1ストライクから引っ張って右前打。無死一、二塁として五番・松井湧心(3年)が初球でバントの構えを見せ、相手の捕逸を誘発した。
そこまでわずか6球。広島商ベンチも、そして広島商バッテリーも浮足立ったに違いない。その隙を松井湧心は見逃さなかった。2球目をセンター返しして2者を迎え入れた。
「15年ぶりの采配なのでちょっと錆びついている…」と準決勝後のインタビュイーで吐露した指揮官には、しかし大会新ルールを最大限に活用した勝負手があった。
四番・岩本大輝のDH解除。2日前の市立呉戦でも六回途中から2年生左腕をマウンドに送り試合の流れを引き寄せた。
その狙いはこの日もはまった。市立福山は準決勝で78球を投じた來山凌也(3年)が全試合で先発を果たした。この日は五回まで毎回の走者を許しながら失点2。そのあとを受けた岩本大輝は六、七回は3者凡退に抑えた。
だが、広島商もまたゲームプランは練りに練っていた。
七回、市立福山は二番・福島悠杏(3年)の左翼越え三塁打で加点して4対2。なおもチャンスで打席には西山結翔…
ここで広島商は準決勝9回完投のエース左腕、小池遼太郎を投入してきた。
結果は初球ファウルのあとの2球目でスクイズを見破った広島商バッテリーに軍配が上がった。このワンプレーのあと市立福山打線は小池遼太郎の前にひとりの走者も出すことなく2点リードのまま九回の守りを迎えたのである。
八回までで岩本大輝の球数37、球威に衰えは感じられなかった。しかし勝負を急いでやや甘めに入ったところを狙われた。鋭い金属音3連発。ヒット、ライトライナー(三谷華輝・3年の超ファインプレー)、暴投、ヒットで今度は市立福山バッテリーの方がわずか7球で一死一、三塁のピンチに追い込まれた。
三塁には同点の走者、一塁には逆転の走者…
打席に迎えるは八番・藤原真聖(2年)。フルカウントからアウトロー真っすぐ、見逃し三振。続く九番・平岡凛太郎(3年)の打ち取ったはずの当たりはショート内野安打となり1点差、なお二死一、二塁…
打席には1年生からメンバー入りしてきた一番・三田桂慎(3年)、最終局面は広島商にとって願ってもいないめぐり合わせになった。
スタンドもグラウンドレベルも1球ごと、最後の力を振り絞った。ボールカウント1-1となって真っすぐファウル、変化球もファウル、5球目真っすぐはボール。そして6球目、ショートゴロゲームセット!その瞬間、広島高校野球の歴史にまた新たな1ページが刻まれた。
高校野球では選手がどんどん成長する。小田浩監督はそうした伸び行く力をさらに引き上げる指導を、最初の赴任地だった西条農でも、同じく甲子園の土を踏んだ総合技術でも続けてきた。加えて一般的に見ても、監督が交代したチームは時として大きく飛躍する。
こうして広島の夏を勝ち抜くための条件が整い、短期間のうちに生じた化学反応が、広陵を倒した広島商をも上回る底力につながったのである。(ひろスポ!広島スポーツ100年取材班&田辺一球)
試合後の小田浩監督インタビュー
(スタンドへ向けて)福山高校、関係者のみなさん、並びに福山市民のみんさん、おめでとうございまーす!
―福山市を驚かせたい、そういうふうに話されていた中での今大会、この景色も含めてどんなふうに見てますか?
いや、一番驚いているのは私です。
―きょうはどう戦いましたか?試合前、3失点以内に抑えてかつというプランでした。
監督のミスがあったんで、しっかり生徒に誤って何とか勝ってくださいと、生徒に頼みました。(得点5目標で)1点足らなかったのは私のミスなので、ほんとにプラン通りのゲームを選手はやってくれたと思います。
―4月に監督就任されて、どんな声をかけてきましたか?
3年生、うちで言うと6年生(中高一貫校)は毎年、監督が替わるという不遇の学年だったんですけど、選手にも保護者にも学校関係者のみなさんにも、何とか信頼していただける指導を心がけてやってきました。ほんとにチーム福山のみなさんのおかげです。ありがとうございました。
―甲子園に向けて…
まったくノープランでイメージもぜんぜん湧かなくて、あのう、何をしていいかわからないんですけども、渡邉キャプテンをはじめ選手諸君の方からいい提案があがってくると思いますので渡邉キャプテンお願いしまーす!
市立福山の2026年広島の夏
2回戦 17-0 油木
3回戦 3-2 神辺旭
4回戦 8-1 賀茂(賀茂は3回戦で春季広島大会準優勝の近大福山に勝利)
準々決勝 11-1 城北(城北は20年ぶり8強)
準決勝 4-3 市立呉(春季広島大会4強)
決勝 4-3 広島商(昨夏広島大会8強)
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2025年09月01日








