ファンも株主ではない。しかし、ファンこそが球団価値の最大の担い手である
5月9日にひろスポ!がアップした以下の記事…
最下位!はあ?そんなのわかってたこと!ファンは現場を叩くんじゃなくて問題の本質を見通すカープリテラシーをいい加減身に着けた方がよくないか? | 【ひろスポ!】広島スポーツニュースメディア
上記記事の中にはひろスポ!に届いた<カープ低迷の本質と球団経営への提言>なるファンからのレポートが掲載されており、話題となっている。
今回、その第2弾が届いた。特に日頃、広島ローカル局や地元中国新聞のカープ情報に慣れ親しんでいるファンに熟読してもらいたい内容だ。
前回と今回の内容を重ね合わせてみれば、新たな視点でコイを語ることのできるファンが増えるのではないか…
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カープ球団は、誰に説明責任を負うのか
——市民球団の理念と経営ガバナンス——
カープは長く「市民球団」と呼ばれてきた。戦後復興期の広島に生まれ、市民、地元財界、自治体に支えられながら存続してきた歴史を考えれば、この呼び名には確かな重みがある。カープは単なるプロ野球球団ではない。広島という地域の記憶と、ファンの生活感情を背負った存在である。
しかし、現在のカープを制度上の意味で「市民球団」と呼ぶことには、慎重であるべきだ。一般市民が株主として球団を所有しているわけではない。現在のカープは、市民が直接所有する球団ではなく、松田家、松田家関連会社、マツダなどを中心とする資本によって支えられている球団である。
だからといって、松田家の役割を否定すべきではない。むしろ逆である。
カープの経営が困難を極めた時代に、東洋工業、そして松田恒次氏が果たした役割は大きい。松田恒次氏は、東洋工業、現在のマツダを中興した経営者であると同時に、カープを存続させるうえでも重要な役割を担った人物である。
そして、ここで最も重要なのは、恒次氏が球団に対して語ったとされる言葉である。
「しばらく面倒を見るが、決して球団を私しない」
「いずれは東洋の二文字は削って、真の野球会社として成功させる」
この言葉は、単なる美談ではない。カープ球団のガバナンスを考えるうえで、今なお重い意味を持つ。この言葉から読み取れるのは、松田家による永続的な私物化ではなく、あくまで一時的に支え、いずれは自立した野球会社として成功させるという理念である。
問われるべきは、松田家がカープに関わってきたことの是非ではない。問われるべきは、恒次氏が語った「私しない」という理念が、現在のカープにどこまで生きているのかである。
その後、マツダ経営の表舞台から松田家が退くにつれ、カープ球団が松田家の事業の中心となっていった。現在もオーナーは松田家から出ている。長年にわたり球団を支えてきた功績は、正当に評価されるべきである。松田恒次氏、松田耕平氏の尽力がなければ、カープが現在まで存続し、1975年の初優勝を迎えることができたかどうかは分からない。
しかし、功績があることと、現在の経営のあり方が適切であることは別問題である。
カープは親会社を持たない球団だと言われる。たしかに、読売、阪神、中日、DeNA、ヤクルト、ソフトバンク、楽天などのように、明確な親会社が球団経営を主導している形とは異なる。その独立性は、カープの特徴であり、魅力でもある。
だが、親会社がないということは、裏を返せば、親会社による経営監督も、上場企業のような株主市場からの規律も働きにくいということでもある。しかも、市民が株主として経営に関与できるわけでもない。ファンは球団の価値を支える最大の存在でありながら、球団経営に対して制度的に説明を求める立場にはない。
ここに、カープ球団のガバナンス上の難しさがある。
カープは誰のものなのか。
松田家のものなのか。
マツダのものなのか。
広島のものなのか。
ファンのものなのか。
あるいは、プロ野球という公共性を帯びた地域資産なのか。
カープは制度上、株式会社であり、法律上は私企業である。しかし、プロ野球球団は通常の私企業とは異なる。球団は、地域の記憶、ファンの感情、子どもたちの夢、都市の誇り、地元メディアの文化、世代を超えた共同体意識を背負っている。その意味で、プロ野球球団は、法律上は私企業であっても、社会的には公共財としての性格を持つ。
もちろん、カープは公的所有物ではない。ファンも株主ではない。しかし、ファンこそが球団価値の最大の担い手である。入場料、グッズ購入、視聴、地域での会話、世代を超えた応援の継承によって、球団のブランド価値は支えられている。だからこそ、球団には地域とファンに対する説明責任がある。
どのような財務方針で球団を運営するのか。
蓄積した利益を、どのようにチーム強化へ投じるのか。
FA選手の引き留め、コーチ人材の招へい、ファーム施設の刷新、データ分析部門の強化、コンディショニング投資、ファン対応の改善に、どこまで本気で取り組むのか。それを、ファンと地域に対して説明する責任がある。
問題は、松田家が球団に関与すること自体ではない。
問題は、所有と執行の距離が近すぎるように見えることである。
たとえば、ドラフト会議は本来、編成部門、スカウト、現場の専門判断が問われる場である。2024年のドラフト密着番組では、松田元オーナーがスカウト会議を取り仕切り、指名候補について報告を求める場面が放送で確認されている。もちろん、この場面だけでオーナーの意向が指名に強く反映されていると断定することはできない。しかし、所有者と専門部門の距離感について、疑問を抱かせる場面であったことは否定できない。ドラフト、補強、現場人事、育成方針、データ活用、施設投資は、専門性の高い経営判断である。オーナーの勘や経験だけに依存して決める時代ではない。
松田家に求められるのは、カープの歴史と文化を守る長期安定株主としての役割である。言い換えれば、「君臨すれど統治せず」という距離感である。
松田家は、カープの象徴であってよい。
長期的な視点で球団を支える存在であってよい。
広島の野球文化の継承者であってよい。
しかし、日々の編成、補強、育成、データ分析、コーチ人事、施設投資に細かく関与することが、必ずしも球団の競争力を高めるとは限らない。むしろ、必要なのは、専門経営者と専門部門に権限と責任を持たせることである。DeNAの南場智子オーナーは、「金は出す」「球場に顔も出す」「ただ口は出さない」と評される距離感で球団に関わってきた。実際、横浜DeNAベイスターズはDeNA参入後、観客動員や球団経営の面で大きく存在感を高め、2024年には日本一にもなった。所有者がすべてを直接差配するのではなく、専門家に委ねながら環境を整えるというモデルは、カープにとっても参考になる。
具体的には、球団社長、編成責任者、育成責任者、データ分析責任者、コンディショニング責任者を明確にし、それぞれが中長期の強化方針を説明できる体制を作るべきである。外部人材や外部アドバイザーの活用も必要だろう。OBの経験は大切だが、OBだけで現代野球を戦えるわけではない。プロ野球はすでに、データ、医科学、トレーニング、栄養、映像解析、メンタルサポートを含む総合競争になっている。
市民球団という理念を本気で守るなら、同族企業的な運営のままでは足りない。
ここで誤解してはならないのは、「市民球団」という言葉を捨てるべきだと言っているのではないということだ。むしろ逆である。カープが本当に市民球団の理念を大切にするなら、その理念にふさわしい説明責任と透明性を持つべきだ、ということである。
市民球団とは、市民が株式を持っている球団という意味だけではない。地域に支えられ、ファンに支えられ、地域社会の公共財として存在する球団という意味でもある。
であるならば、球団はファンに対して、もっと説明すべきである。
なぜ補強に慎重なのか。
なぜ蓄積した利益が成長投資に十分に回っていないのか。
なぜコーチ人事がその顔ぶれなのか。
なぜファーム施設やデータ部門への投資が十分なのか、不十分なのか。
なぜ暑熱対策やファン対応への予算が、十分に見えないのか。
もちろん、企業秘密や編成上の機密はある。すべてを開示せよという話ではない。
しかし、球団の基本的な経営思想、投資方針、チーム強化方針は、もっと説明されてよい。
カープは松田家だけのものではない。
マツダだけのものでもない。
もちろん、制度上、ファンの所有物でもない。
しかし、カープは広島という地域と、長年支えてきたファンによって価値を持つ球団である。その意味で、カープには通常の中小企業以上の公共性がある。プロ野球球団は、単に利益を出せばよい企業ではない。地域の誇りを預かり、世代を超えたファンの思いを受け止める、公共財としての責任を持つ存在である。
「市民球団」という美しい物語を守りたいのであれば、もはやその言葉に甘えてはならない。
カープに必要なのは、松田家の歴史的役割を否定することではない。松田家が歴史と文化の守り手に徹し、専門経営者と専門部門が説明責任を持って球団を運営する体制へ移行することである。
松田恒次氏が語った「決して球団を私しない」という言葉に立ち返るなら、カープが目指すべき方向は明らかである。
それは、同族色の強い中小企業的な運営にとどまることではない。地域とファンに支えられた公共財としての責任を自覚し、説明責任を果たす、真の野球会社になることである。
2026年5月12日 下前 雄著
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2025年03月30日











