旧広島市民球場の残存するライトスタンド撤去の方針に対して身振り手振りで持論を展開する「全国広島東洋カープ私設応援団連盟」会長の新藤 邦憲さん
今や全国プロ野球ファンの中でも”最大勢力”になりつつあるカープファン。私設応援団をまとめる全国広島東洋カープ私設応援団連盟会長の新藤 邦憲さんが広島市の態度に激怒した。
広島市市役所で1月28日にあった都市機能向上対策特別委員会の傍聴席に知人らと姿を見せた新藤さん。すでに解体された旧広島市民球場で唯一、残存するライトスタンドの一部を「解体する」と市の担当者が発言すると、思わず「何を言っとるんじゃ」と声をあげた。
特別委員会では広島市が旧広島市民球場跡地での整備を目指す「屋根つきイベント広場」を中心とした整備プランが示された。
その中に旧広島市民球場の歴史の継承をどうするか、という項目がありそこにはこう記されていた。
・戦後の復興と共に歩んできた旧球場の歴史や未来を継承していくため、勝鯉の森を現位置に保存するほか、ホームページやピッチャーズマウンド等をモニュメントとして再現する。
・従前計画に基づき残している外野ライト側スタンドについては「旧広島市民球場跡地委員会」において「外野ライト側スタンドを取り壊し、モニュメントなど別の形で残してはどうか?」という意見が大勢であったことや、よりイベントが開催されやすい環境整備を行うという観点から解体する。
そもそも旧広島市民球場の解体は当時の各種アンケートによれば大多数の市民が「解体反対」に1票を投じる状況下にあった。ところが当時の秋葉市長の方針により「解体ありき」(市民団体関係者)で作業が進められ、住民投票を求める市民の声も門前払いに。訴訟も起こされたがその中で広島市側は「広島市民球場は市民のものではない」と主張し、その訴えが認められたことで市民の反発はさらに大きなものになった。
このように市民、カープファンの「解体反対」の声は根強く、その折衷案としてライトスタンドの一部のみ残す、という手法がとられたという経緯がある。
ところが球場の解体作業が終了した2012年春以降、残されたライトスタンドの一部の管理、保存にほとんど人の手が加えられてきていない。
事実、広島市の担当者の説明を聞いた特別員会の石橋竜史副委員長は次のように発言した。
「外野ライトスタンドを取り壊しとありますが(中略)このあたりは旧市民球場の一部でも残して欲しいという思いを反映して残されているわけですけども、現状を見てみるとほんとに野ざらしになり雑草が生えて、何度もあのライトスタンドに足を運んだ野球少年の私としましても非常に悲しい状況です。要望を聞き残しながらも今の状況…、どう思いますか?」
だが、この問いに対して旧広島市民球場跡地担当課長は「現状においては、えー…」と言ったきり次の言葉が出てこなかった。要するに何もしてこなかった、ということなのだろう。以前には球場跡地全体が雑草で覆われ、バスの車窓からその「悲しい」風景が市民、来訪者の目に飛びこんでくるような状況もあった。
石橋副委員長は助け舟を出し「私が何を言いたいかと言うと、形だけ残していますがやはり歴史であったり人々の思いへのリスペクトが足りないと思うんです。今回、資料に出されていますように跡地委員会で撤去の意見が大勢を占めているから、跡地の活用策がこの市の示すプランに決まった場合はやはり解体でしょうか?」
そう念を押して発言を終えた。
普段は人気のない旧広島市民球場跡地の片隅に残る旧広島市民球場ライトスタジアムの一部。すでにスタンドの上部は撤去され、下層部分のみしか残されていない。しかも目隠しの囲いで仕切られており、市民がそこに近づくことはできない。旧広島市民球場跡地委員会より以前にあった跡地活用策を探る「賑わいづくり研究会」ではここに跡地管理用のの「物置」や「見晴台」を整備することを提言していた。
このやりとりも含めて会議を傍聴した新藤さんは帰り際にテレビカメラに囲まれてライトスタンドに対する思いを訴えた。
「保存が大前提。秋葉市長の時に最初2000席は残すことになったが何の相談もなしにあっという間に200席になった。そして今度はいきなりすべて撤去。いったい誰がそんなことを言ったのか?みなさんも聞かれたと思うが最初からサッカースタジアムは広島みなと公園ありき。テーブルやドリンクホルダーをつけていくらでも活用できる。サッカースタジアムならライトスタンドも活きる。それより何より、これまでイベントで跡地を何度も使いながら鉄板で囲ってまるでライトスタンドを邪魔者扱い。活用してみようという気は最初からさらさらないのでしょう?さっき石橋先生も触れましたが、撤去しなきゃいけない理由がぜんぜん見えないんですよ」
都市機能向上対策特別委員会を傍聴する新藤会長(左端)
新藤さんは今回の事態に対して松井市長に向け「公開質問状」を提出する、という。
旧広島市民球場の跡地活用策を巡るゴタギタ続きの広島市、そして松井市長。サンフレッチェ広島サポーター、全国のサポーターの声に続き、旧広島市民球場を「聖地」として心の拠り所としてきたカープファンの声にも今一度、耳を傾けるべき状況となりつつある。
新サッカースタジアム取材班