新井貴浩２０００本安打、その裏に隠されたもうひとつの２０００本安打

2016年04月26日: 編集部

広島の新井貴浩が２０００本安打を達成した。

４月２６日、神宮球場でのヤクルト３回戦の三回。二塁打の丸を置いて、いかにも新井貴浩らしい左翼線への適時二塁打をヤクルト先発の成瀬から放ち、チームの勝利にも貢献した。残り２９本で開幕を迎え２４試合目でのスピード達成となった。プロ野球史上４７人目。

スタンドの左半分は赤く染まり、赤い熱気漂う神宮で、この大記録を後押しするチームにとって１１年ぶりの快記録が二回に生まれた。エルドレッド、鈴木誠也、堂林がソロホームラン３連発。成瀬に強烈なボディブローをお見舞いした。

前回、広島の３連発は２００５年に嶋重宣、新井貴浩、前田智徳で記録した。

さらに鈴木誠也は七回、新井貴浩の２本目のヒットなどで築いた二死満塁でレフトスタンドにグランドスラムを打ち込んだ。

エルドレッドも九回に８号ソロ。今季チーム最多の１７安打で１１対３の圧勝となった。

新井貴浩は試合後、ヒーローインタビューの中で「試合前、鈴木誠也に、きょう２本ホームラン打ってくれと言ったらほんとに打ってくれました。いい後輩ばかりで頼もしいです」と話した。

実は新井貴浩にはその胸にそっと仕舞っておいたことがある。

２００７年９月１日、当時の広島市民球場（すでに解体）。前田智徳が３７人目の２０００本安打をこの試合で達成した。無安打のまま八回を迎え、前田は九番目の打順だったが、全員で繋いで大記録へのお膳立てをした。四番を打つ新井貴浩が最後に四球を選び、その日の主役へと繋げた。

この時も初回に梵がソロを放ち、三番・栗原が１９号と２０号、嶋も八回に３ランで弾みをつけ、さらに新井貴浩自身も２４号２ランを放っている。

だが、新井貴浩はこのあと２８試合で四番を打ち、シーズンを終えると、黒田博樹とともにカープのユニホームを脱ぐことを決めた。

当時の指揮官、マーティ・ブラウン監督は、二人のことをそのシーズン大詰めで次のように語っている。

「私の力では限度があると思う。新井も含めて彼らには私の気持ちは伝えてある。選手として、エースとして、四番バッターとして私がどう考えているかは十分、分かってくれているはずだ。あとはフロントがベストを尽くすだけ。でもフロントの説得にも限度があると思う。けっきょく決めるのは本人たちだからね」

「二人には、カープという組織に雇われた監督として“ぜひ残って欲しい”とは十分に伝えたつもりでいる。ただ、野球人として友人として、ふたりがどんな選択をしようとそれを理解してサポートするので話があれば自由に声をかけて欲しいとも伝えてある」

「黒田も新井もハイレベルの強い闘争心を持っていて、何とかして優勝したいという気持ちが非常に強い。カープのユニホームで優勝することが理想的かもしれないが、これまでの経験の中で何度も何度もトライはしてきた。プレーオフにどうしても出たい。それはファンも同じことだけれども…。だからと言って彼らが来年、カープのユニホームを着ないとは言っていない。優勝に対してそういう気持ちが強いということを言っている」

「例えば黒田が来年、米国で好きな球団に行って自分の力を試してみる。それをひとつの選択肢として、来年もカープのユニホームを着て間違いなくプレーオフ進出のチャンスがあるのでどうだ？といえばその答えはひとつしかないと言い切れる。私も一緒。彼らと同じ闘争心を持っているアスリートの思いはみな一緒だ」

そして、運命の赤い糸によって新井貴浩は再び赤い心でカープファンの声援を背にバットを握り、とうとう到達した一区切りの大台の数字。そのうちの１２９本は広島戦で放ったもの…

神宮に新井貴浩のインタビューの声が響くたびに大歓声が交錯する中、アナウンサーから唐突に「カープのユニホームを着ての達成ですね」と振られたヒーローは、数秒の間を置いて「なんと言っていいか、ほんとにみなさん、ありがとうございます」と大きな声でコメントした。

おそらくその時のスタンドの温かい反応は、その胸の２５番の奥の方まで届いて、ずっと忘れられない感触として残っていくのだろう。

そして、インタビューにあった「みなさんと一緒に笑顔になりたい」という今シーズンのエンディングに向けて、赤い心のエネルギーが２５番を突き動かすのだろう。

２０００年から毎日、続く、携帯サイト「田辺一球広島魂」より記事抜粋

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