黒田博樹の2006年シーズンを綴った「CARP2006 -07永久保存版」の表紙には黒田のほか、新井貴重、前田智徳の”雄姿”も踊る
「広島のエース黒田博樹の素顔」第4回
反骨の糧「もはやエースではない」の新聞記事
原爆ドームから目と鼻の先。広島市民球場から見渡す風景に桜色が加わり始めた。そしてカクテル光線のナイター練習、そのグラウンドには、地元での開幕3連戦に備える黒田の姿があった。
2006年シーズン開幕となった中日戦(ナゴヤドーム)は1勝2敗ながら3試合で6失点。黒田が”第1走者”となる「146試合、最終走者へ向けてのバトンリレー」(清川投手コーチ)がいよいよ始まった。
ところで「エースの条件」とは何か。
先発完投、シーズンを通しての安定したピッチング、勝ち星の積み重ねや2点台前半の防御率。だが、ひと言でまとめるなら「絶対的な信頼感」となるのではないか?
「もはやエースではない」
黒田にとってショッキングな記事が地元紙に掲載されたことがある。2年前の2004年のシーズンのことだった。
その前の年、2003年に13勝を挙げた黒田は推定年俸1億円を突破。誰もがエースの活躍を疑わなかった。
しかし…。
まさかの3連続KOをくらってチームの借金を膨らませるその姿がファンの失望を買った。
「仏の顔も三度まで。黒田は並み以下の投手になっている」
こう綴る地元紙の論調は厳しかったが伏線があった。
この紙面より2週間前。ホームラン3発を浴びてマウンド上でガックリと膝に手をつく背番号15に「エースの看板が泣く」と同紙は叱咤した。八回まで引っ張り過ぎたのではないか?という周囲の声に対しても「山本采配を見る限り、八回の続投は当然」としていた。
黒田は言う。
「確かにメディアの方たちとの接し方には難しい部分もあります。活字というのは読み手によって印象が違ってきますからね。エースではない、と書かれた時は何で?と思ったし悔しかったですね。でもそれもお互いの信頼関係があってこそ、だと思うんです」
「もはやエースではない」
記事はすぐに球場のロッカーに貼られ、その後、マウンドに向かう黒田を激励し続けた。嫌でもその目に入る「エースではない」の7文字が黒田を二回り大きくした。
2005年には15勝をマークして最多勝利の初タイトル。そして2006年、さらなる高みへ。
だが、結果的にはこの年、黒田は新たな試練の時を迎えることになる。5月のFA権獲得でヒートアップする報道合戦、8月の右肘痛による登録抹消。広島のエースはマウンド以外の場面で”ピンチの連続”となっていった。
※参考文献
「CARP2006-07永久保存版」(田辺一球著、発行所スポーツコミュニケーションズ・ウエスト」(定価1200円、税込み)
2006年シーズンに活躍した黒田博樹、新井貴浩、前田智徳らの365日をまとめたムック本で「黒田博樹・激動と闘魂の06年」という特集も組まれている。
同書はすでに全国の書店から引き上げられており、注文できるのはインターネットでのみ。興味のある方はコチラ。2004年シーズンから2013年シーズンまでの全10冊が揃う。