画像は2013年6月18日、マツダスタジアム記者席で撮影された広島-日本ハム4回戦のスタメン用紙、リアル二刀流デビュー戦…栗山英樹監督(当時、画像に本人署名)と大谷翔平(五番ピッチャー、スタメン)の夢の第一歩は、7億ドルの道へとつながった
この記事は田辺一球|noteを引用しています。3部作になっており、1、2話は前回報道分に重複します。
カープダイアリー第8459話「マツダスタジアムからドジャー・スタジアムへ、二刀流大谷翔平の過去と未来と…」(2023年12月10日)
To all the fans and everyone involved in the baseball world , I apologize for taking so long to come to a decision.
I have decided to choose the Dodgers as my next team.
大谷翔平がインスタグラムにその決意をアップしたのは日本時間の12月10日午前5時4分だった。
マイナス17時間の現地太平洋(西部)時間では9日午後0時4分のランチ時だ。
NHKテレビは5時25分にエンゼルスからFAとなっていた二刀流の新たな鞘になる街がロサンゼルスになることを文字スーパーで報じた。全米も似たようなものだっただろう。
NHKはさらに午前6時ニュースで詳細について伝えた。
契約内容について米メディアは10年総額7億ドル(約1015億円)と伝えており、すべてのプロスポーツの中で最高額。これまでは、サッカーのリオネル・メッシがFCバルセロナ時代に結んだ4年6億7400万ドルが最高だった、と…
大リーグ6年目の今季、打っては44本塁打、投げては10勝。大リーグ史上初の2年連続2桁本塁打2桁勝利、の対価は、驚くべきものになった。
栗山英樹監督(当時)との二人三脚による「マンガの世界」への挑戦。既成概念の中で生きる多くの関係者やプロ野球OBが「二刀流は無理!」を唱える中、しかし日本ハム入団1年目、2013年6月18日のマツダスタジアムでリアル二刀流の“試し切り”するチャンスがやってきた。
その日、マツダスタジアム記者席に配布されたスタメン表がある記者の手で撮影され残されていた。そこには…
広島東洋カープ 日本ハムファイターズ 監督署名栗山英樹
1・6安部60 1・8陽1
2・4菊池33 2・6大引7
3・8丸63 3・3稲葉41
4・3エルドレッド55 4・7中田6
5・9松山37 5・1大谷11
6・7ルイス41 6・5小谷野5
7・5堂林7 7・4今浪45
8・2石原31 8・9佐藤52
9・1野村19 9・2鶴岡22
監督野村77
…とある。観衆は2万2146人だった。
試合は7対4で日本ハムが逆転勝ち。松山に先制ソロアーチを許した大谷翔平は4回81球4安打3失点で降板後、ライトの守備につき。計4打席に立った。3打数1二塁打1四球、遊ゴロでの打点1だった。投げ合った野村祐輔も4回99球で勝ち負けつかず…
当時の報道によれば“強硬指名”した日本ハムとの間で契約した際の条件は、契約金1億円+出来高払い5000万円、年俸1500万円(推定)だった。1500×10年なら1億5000万円。それが今回、10年間で1015億円になった。
NPB12球団の外国人選手などを除く支配下選手総額は4月発表分で319億円。
大谷翔平の懐刀、水原一平通訳がおそらく英訳してくれたであろう、決意表明インスタは分かりやすい。
その中で大谷翔平は栗山英樹監督から聞かされた「夢は正夢」を現実のものとするため、新たな決意をこう語っている。
Until the last day of my playing career, I want to continue to strive forward not only for the Dodgers but for the baseball world.
生涯ドジャース。どんな未来が待っている?
今年6月30日(日本時間7月1日)、たくさんの思い出が詰まったエンゼル・スタジアム・オブ・アナハイム右翼席巨大看板のその遥か上を通過する、約150メートルの大アーチに全米が沸いたことは記憶に新しい。
ロサンゼルスの渇いた空気と青空。エンゼルス時代のような敬遠攻めとはおさらば、の正に力対力の真っ向勝負!…ならばドジャー・スタジアムの満員のファンを歓喜させる、打者大谷の、さらなる飛躍が待っているような…
カープダイアリー第8460話「大谷翔平加入で豪華すぎるドジャース打線完成、一方トロント市民は誤報掴まされて失意のどん底…?でも龍馬の時もそうだけど真実はひとつ…」(2023年12月11日)
新聞休刊日。なんでこんな日に…と思った新聞関係者は大勢いたはずだ。大谷翔平の超ビッグニュース掲載が一日遅れになる。広島でもコンビニの新聞スタンドに入っていたのはスポ―ツ各紙だけ、だった。
休刊日はほぼ毎月、月曜に設定されている。それでもスポーツ紙が売られているのは、宅配中心の一般紙とは販売方法が異なるから、だ。休刊日は労働環境の厳しい販売店に対する配慮が主であり、さらに言えば土日に各種レースやスポーツ競技が開催されるのにスポーツ紙を出さない訳にはいかない。
よって休刊日売りのスポーツ紙には「即売特別版」の名が付されている。
広島売り「スポニチ」の一面は「末包30発」の見出し記事だったが、最終面は「大谷ドジャース1015億円」だった。
この記事では「ドジャースの来季予想スタメン」も紹介された。
一番セカンド・ベッツ31歳 率・307、本塁打39、打点107、盗塁14
二番DH・大谷29歳 率・304、本塁打44、打点95、盗塁20
三番ファースト・フリーマン34歳 率・331、本塁打29、打点102、盗塁23
四番キャッチャー・スミス28歳 率・261、本塁打19、打点76、盗塁3
五番サード・マンシー33歳 率・212、本塁打36、打点105、盗塁1
六番センター・アウトマン26歳 率・248、本塁打23、打点60、盗塁16
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さすがはポストシーズン11年連続出場の名門。実にバランスよく、ものすごい数字が並んでいる。そこにドジャーブルーに染まって現役を全うすることを決めた二刀流…
ロサンゼルス・エンゼルス(最終的には西地区4位)打線の中では孤軍奮闘だったから環境はガラリと変わる。現地時間9月2日のオークランド・アスレチック(最終的に西地区最下位5位)戦で2度敬遠され「最下位争いなのに止めて!」とファンから怒りの声が上がったこともあったが、そんな話は完全に過去のものになる。
野球・ベースボールと純粋に向き合いたい大谷翔平にとって、それはとても残念なことであり、生涯で何打席立てるか分からない中にあって、貴重なスイングの場を無駄にするわけにはいないのである。
同じロサンゼルスの名を冠していてもドジャース打線はエンゼルス打線の対極にある。そして1883年創設のメジャーリーグ最高峰の環境下で24度のリーグ優勝、7度のワールドシリーズ優勝を積み上げてきたチームの中の大きな歯車になる。
だからこそ「ドジャース10年総額7億ドル」のニュースは日米双方のファン、関係者らに驚きを持って迎えられ、メディアは競うようにサイドネタなどを次々にアップする状況となった。(ただし例えばドイツ国内ではこのニュースをほんぼスルーしており、世界中を衝撃報道が駆け巡った訳ではない…)
その中のひとつに「サンスポ」の「大谷翔平を逃したブルージェイズ、まさかのチケット250円に暴落」というのがある。
メディアが一時「契約目前」と報じたトロント・ブルージェイズのファンは失望に暮れ、トロントの街もまた消沈…という事態に陥ったらしい。
この記事によればブルージェイズファン?がチケット販売サイトで来季のホームゲームチケットの叩き売りを始めた、という。その値段は日本円でおよそ250円。
転売屋は世界共通、ということか…
二刀流がカナダへ…という「誤報」はジョン・モロシという著名記者のXによってあっという間に広まった。
「速報」では新聞媒体の対極に位置するSNS。世界のどこにいても「情報」を共有することができる。
ジョン・モロシ記者はSNSを駆使してその名を轟かせてきた。二刀流案件でも常に先頭を走っていたかったはずで“仕入れた”各種情報をアップするかどうか選別する中で「ドジャースもあるけど、ブルージェイズの流れ…」という特ダネをアップした。
だが、冷静に考えればトロントの生活環境が二刀流の“刃こぼれ”に繋がることは誰にでも理解できる。
まず気候の問題、そして可動式屋根のスタジアムは時代遅れと言われて久しい人工芝。しかもそこには菊池雄星という“仲間”がすでに存在している。ベンチ入りできる通訳は同一言語でひとりが原則。懐刀の水原一平通訳を失う訳にはいかない。
ジョン・モロシ記者はSNSの中で「今起こっていること、リアルタイムで進みつつある動き…」を強調していた。
もちろんそれがXの最大の強み、だ。それを見た人々を、いてもたってもいられない気持ちにさせただろう。
だが大谷翔平はおそらくかなり早い段階でドジャース移籍を決めていたはずだ。
広島でも最近、似たような話があった。龍馬のオリックス移籍の件、だ。
地元各紙はカープ球団が残留交渉を重ね、龍馬も熟考に入った様を事細かに伝えていた。
一方、広島生まれのネット媒体のひとつである、ひろスポ!では10月20日、クライマックス・シリーズ、ファイナルステージ3連敗で新井カープ1年目が幕引きとなった直後に以下の記事をアップしている。地元メディアがFA移籍問題を伝えるより遥かに早いタイミングとなった。
<クライマックス・シリーズ終戦…新井監督カープ家族から外れて“オリックスの西川龍馬になる日”…海外FA権取得の九里亜蓮だって分からない…>
SNSではこの“報道”に対して反発する声も上がっていたが、確たる情報からの記事は“誤報”にはならない。
今回の大谷翔平のケースではメディアの動きを代理人側やドジャースサイドが見事に封じてきた。テネシー州ナッシュビルで開催されたウインターリーグに耳目を引きつけ、同時並行的に水面下で契約話を着々とまとめた。
現地での取材ルートに乏しい日本の放送局は連日、ウインターミーティングからの画をテレビ画面で紹介して、ミーティングが終わった時点では撮影する「絵」がないため、現地テレビ局の特設ブース撤去の様子などを紹介していた。
一般紙、スポーツ紙の報じた内容も、やはりウインターミーティングに引っ張られていた。
けっきょく「正解」には、うわべからのアタック!ではなかなかたどり着けないということになる。
可能性の高い、低いにはあるにせよ、いかに内部から情報を引き出すか?
ジョン・モロシ記者もきっと内部情報に精通していたのだろう。ただし掴まされたのは「ガセネタ」だった、ことになる。普通に考えれば…
カープダイアリー第8461話「広島のコンビニでカープ一面残紙たっぷり、大谷ドジャース一面売り切れ…7億ドル契約の水面下で”誤報”もまた二刀流か?(2023年12月12日)
広島市内の雨は明け方には上がり、次第に青空が覗き始めた。あす、カープ新入団会見が行われるリーガロイヤルホテル広島周辺にはしかし冷たい風が吹き、そこから徒歩2分の旧広島市民球場跡地で展開する広島ゲートパークやその南隣の原爆ドーム周辺では落ち葉が舞っていた。
そんな街のクリスマスのイルミネーションは新たに広島に“移住”してくる新人選手8人の目にはどんなふうに映るのか?
ランチタイムまでにそれぞれホテルに到着したルーキーたちは採寸やメディアの囲み取材を受け、あすの大舞台に向けて緊張感を高めていった。
ルーキーたちの取材は時間帯によっては同時に複数行われる。隣の様子も聞こえてくる。そんな中、番記者たちに一番好評だったのが、中村奨成から22番を“もぎとった”高太一だ。
カープ球団への忖度から、中村奨成の22番とは振らず、例えば高橋建二軍投手コーチや佐々木主浩さんを22番に重ねた質問が展開された。愛媛県出身、広陵-大商大という道を歩んできた高太一は広島の街にすでに溶け込んでいるから、明るく元気な受け答えができる。
この日は各紙にとって、新入団会見日以上に重要であり、正月紙面用のインタビューなど企画取材も行われる。
ドラ1右腕の常廣羽也斗は複数の取材をこなし、余裕の表情?あすの本番で何を語るか…
それで言えば、7億ドルの二刀流が、ドジャースの青を身にまといどんな夢を日米ファンに伝えようとするか、が非常に興味深い。
日本野球の頂点に立ったその飛距離とその投球水準は、米国野球をも根底からひっくり返した。投球回20に到達した時点で打者としての20試合のスタメン出場(1試合3打席以上)をクリアしていればTwo-Way-Player登録へと切り替わるという歴史的ルールが2020年に導入された。
現状では大谷翔平のみがTwo-Wayをクリアしているが、それに続く者は必ず出てくる。ベースボールのおよそ150年の歴史と投手ひとつとっても分業制が進むその概念を根底から覆しつつある。
ところでこの日、海の向こうでは大谷翔平の入団がドジャースから正式発表された。だんどりよく用意された大谷ユニはさっそくオフィシャルショップで売りさばかれた。もちろん背番号はエンゼルス時代と同じ「17」だ。
と同時に、来季年俸はわずか200万ドル(約2億9000万円)であることも分かった。これは総額の3パーセントにしか当たらない。
「前例がない」が代名詞のTwo-Way-Playerは契約においてもやはりそうだった、ことになる。
その超ド級契約を仲介したのが代理人事務所CAA(クリエイティブ・アーティスツ・エージェンシー)だ。
今オフのFA市場最大の関心事として8年ないしは9年の長期で史上最高額となる総額5億ドル(約760億円)以上の超大型契約が予想されていたが結果的には2億ドルプラス、に跳ね上がった。
米国メディアは、そのあたりの裏事情についてもいろいろ紹介されている。その中には“誤報”を発したジョン・モロシ記者の存在を指摘する声もある。
“誤報”の中身はTwo-Way-Playerがトロントに“向かっている流れが主流になりつつあるかも”というものだったが、ブルージェイズ側でも7億ドルに近いような額を用意していた可能性がある。他にもシカゴ・カブスやアトランタ・ブレーブス、サンフランシスコ・ジャイアンツの名前が取り沙汰されており、“価格競争”を“誤報”が煽った感は否めない。
そのシナリオをCAAがジョン・モロシ記者との連携プレーで展開させた可能性は果たしてどれぐらいあるのだろうか?
5億ドルから7億ドルになたことで仲介者への報酬も目がくらむほどアップされたのだから、そこからジョン・モロシ記者に渡る“報酬”もまた巨額になるだろう。
“誤報”と“特報”を操ってこそメディア界の二刀流?
そうスポーツとメディアと夢と巨額の報酬のサイクルの中で大谷翔平はさらに異次元の進化の道を歩んで行く…
なお、ドジャース入りを報じた前日11日、新聞休刊日のスポーツ各紙、即売特別版の話で言えば、広島市内のコンビニを見た限り、カープネタを一面にしたスポーツ紙は売れ残り、大谷一面のスポーツ紙は売り切れ、という傾向にあった。
これは大谷翔平がふだん、プロ野球にはほとんど興味を示さない層の客が購入したことを示唆している。大谷翔平の生き方は、幅広い層から高い支持を集めている。おそらくその支持率は“国内”ナンバーワン…(ひろスポ!メディア特命班&田辺一球)