ひろスポ!「カープ女子東京通信」担当のうえむらちかさんも、スタンドで観戦しながら「田辺一球広島魂」をチェック!
2000年10月10日に始まったカープ情報満載の携帯サイト「田辺一球広島魂」が無休の”連投”で15年目に突入-
日々のナインの動き、ファンの声、独自の視点によるコラム、独自の試合速報などを365日、一日も休むことなく連載し続けてついに15年目に突入する。
「広島魂」に掲載された記事やコラム、全公式戦記録などは膨大な量におよび、簡単にバックナンバーを読むことができる。
以下、2007年11月30日コラム「剛腕の証明、新たな挑戦」
~剛腕の証明、赤い魂~
この日が来ることは分かっていた。ローカルの、地方球団でエースであり続けた男に、大海原の旅の続きが待っていることは、もう分っていた。
「もともとメジャー挑戦(志向)はなかったけど、何か踏ん切りがつかず、優勝もしていないし自分の野球人としての中でもう少し何か…、何といっていいか…」
球団にメジャー挑戦を伝えた黒田が記者団にその最大の動機を尋ねられ、言葉を探した時にひらめいた。その答えは“飢餓感”だろう。
本能から来る戦うエースの心の叫び、と言ってもいい。素手で硬球を叩き落とし、すねでピッチャー返しを受け止め、山本政権下ではたとえ200球を投げようととも完投にこだわり、圧倒的戦力の巨人に立ち向かう。さらにその先、もっと大きな相手と大きな舞台で戦いたい、そう考えるのは当然のことかもしれない。
「もはやエースではない」と見出しにある新聞記事を自分のロッカーの扉に貼り、幾度となく修羅場をくぐり抜けてきた。そして、カープのエースとして君臨する未来より、鳥肌の立つような世界で感じたことのないたかぶりとともに、渾身のストレートを投げ込む自分に賭けてみる道を選んだ。
7年前の春「ミスターパーフェクト」の外木場義朗氏と訪れた沖縄キャンプ。前年5勝8敗。防御率6・78で足踏みする黒田がブルペンで黙々と投げていた。
「お尻の左サイドのバッターに向かう動き、腕と足の使い方のバランスの良さ。これで勝てない方がおかしい」
“昭和の剛腕”はすぐにその場で、エースに上り詰める者だけが備えるその力量を見抜いていた。それから6シーズンを経て“平成の剛腕”はやはりセ世の頂点に立った。最多勝のタイトルを獲った06年、黒田の年俸は10倍の2億円に到達した。昨年は最優秀防御率、1・85。
高校、大卒時までほとんど無名の投手が鋼(はがね)の右腕を自在に操るまでの11年間。“地方球団からの逆襲”に込められた反骨心と、エースとしてのプライドをまざまざと見せつけられた。取材する側にとっても2度と経験できないほどの充実した、感動と興奮のシーンの連続だった。
記者に囲まれてポツリポツリと話をしたあと、テレビカメラへ向けてのファンへのメッセージをリクエストされた黒田は感極まって言葉が続かなくなった。「広島で、この球団で育ててもらった」感謝の気持ち、そして自分を支えてくれた多くの関係者と、何よりいつも声援を送ってくれるファンへの思いは短い時間では言い尽くせない。
黒田は過去にも、一度だけ涙を見せた。
球界再編の嵐が吹き荒れ、「もうひとつの合併」がひとり歩きしていた2004年の8月3日、顔をタオルで覆ったままベンチでひとり泣いていた。
この夜、平成の鉄人・金本との4度の対決に完敗。七回、首脳陣の代打の打診を断って続投した黒田は八回を3人で片付けていよいよ九回、リードは1点。先頭の片岡にヒットを許すと、迎えるバッターはに5日前、岩瀬の高速スライダーを左手に受け、右手一本で構える金本…。
1球目は右への大ファウル、そして3球目をライト線に打ち返された。その後、四球と犠飛で同点とされ二死からも連打を浴びてマウンドを降りた。チームは5連敗を喫し、黒田は後ろ髪をひかれる思いで広島を離れアテネ五輪へと旅立って行ったのである。
「またすぐにオリンピックと言わず明日にでも投げたい」
そう言ってあの夜、悔し涙を流す黒田を見た時、さらにその存在が大きくなることが確信できた。黒田をそこまでの気持ちにさせたのもやはり「赤の魂」を宿す金本で、二人はこの日、誰も経験のできない素晴らしい戦いを続けたことになる。
二度目の涙の先には「広島からのメジャー初挑戦」という新たなスタートラインが用意されている。そこから先は、これまでと同じように幾多の試練を乗り越えながら、また「剛腕の証明」を続けていくのだろう。
初めて、ジャパンのユニホームに袖を通した時に感じた「すごい世界」がきっと自分をもっと大きく育ててくれていると信じているのだろう。
「赤い魂を忘れない」
金本は広島での最後の会見でそういい残して活躍の場を関西に移した。黒田もその胸に「赤い魂」を宿しつつ、メジャーの舞台でその右腕に思いのたけを込めて投げ続けるのである。
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