12月24日、みよし公園アリーナで開催されたバンビシャス奈良戦でゲーム前に奈良のジェリコ・パブリセビッチHCと談笑する朝山正悟兼任HC
B.LEAGUEで一番ドラマを背負った男、広島ドラゴンフライズ・朝山正悟兼任ヘッドコーチの挑戦
2018年も残すところあと2日。B2西地区4位の広島ドラゴンフライズは12月30日、31日に本拠地の広島サンプラザホールでB2中地区4位の茨城ロボッツと対戦する。
ちょうど1年前、2017年の同じ日にもやはり広島ドラゴンフライズは地元で2連戦を迎えた。その時の画像がコレである。
画像の右から2番目が朝山正悟だ。第3ユニホーム、ブラックユニホームで戦うのは今回も同じ。ただ、大きく違うことがある。
この画像ではマイクを持った佐古賢一がヘッドコーチであった。
しかし1年が経ち、今度は朝山正悟が選手兼ヘッドコーチだ。
普通では考えられない選手兼ヘッドコーチの誕生は、この時B.LEAGUEがメディアに配信されるニュースでも取り上げられた。
広島ドラゴンフライズをゼロから作り上げた佐古賢一ヘッドコーチが2016-17シーズンをもって退任。クラブはB1の京都ハンナリーズで2016-17シーズンにアシスタントコーチを務めていたジェイミー・アンドリセビッチ氏をヘッドコーチとして招聘したが、開幕から15試合を終えた時点でチームから離脱となり、17試合を終えた時点で解任となった。
その時点でチームの成績は8勝9敗。2016-17シーズンは、B1昇格まであとひと息の46勝14敗、勝率・767でレギュラーシーズンを駆け抜けた。それが勝率5割以下。しかも昨季はホームで5敗しかしていないが、この時点でもう5敗となった。
「B2優勝とB1昇格」を掲げて臨んだ広島ドラゴンフライズのB2での2シーズン目は危機的状況となった。
11月30日、広島ドラゴンフライズは朝山正悟兼任ヘッドコーチ、山田大治兼任アシスタントコーチ、さらには朝山正悟から北川弘がキャプテンを引き継ぎ、田中成也とクリント・チャップマンが副キャプテンとなることを同時に発表した。この新体制は発案からはずか3日間で決まった。
チームは朝山正悟兼任HCとともに、12月1日にはアウェーの信州ブレイブウォリアーズ戦に向け移動した。
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朝山正悟は、ミスターバスケットボールと称される佐古賢一氏とアイシンシーホース(現アイシンシーホース三河)でともにプレーした経験があり、同氏に強く誘われて広島にやって来た。2015年7月の話だ。
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早大卒業後、2004年、日立サンロッカーズ(現サンロッカーズ渋谷)からスタートして今年で14シーズン目を迎えるベテランだ。
2005年秋にはbjリーグが始まりその後も国内男子バスケ界は”難問”を抱えたまま時を重ねた。朝山正悟は三遠ネオフェニックス、レバンガ北海道、アイシンホース、三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ名古屋(現名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)と渡り歩き、そその間2006年FIBAバスケットボール世界選手権の代表候補に入り、JBLオールスターMVP(2007-08シーズン)にも輝いた。レバンガ北海道では山田大治とともにプレーし、2013年に発足した日本バスケットボール選手会副会長も務めた。
国内トップレベルの力量で活躍したのは24、5歳の頃。その時には世界が見えていた。
「勝たなければダメ、勝った時にこそ多くの学びがある」そういい続けて高みを目指し続けてきた。だから、環境を変えることを厭わなかった。
そして、今年6月で36歳になった。夢にまで見た国内リーグ統一、そして本当のプロフェッショナルリーグ、B.LEAGUEが始まった。
ただし、階級分けという作業によって、広島ドラゴンフライズは2部スタートとなったのだが…。
朝山正悟を「優勝への切り札」とした佐古賢一氏は練習中もゲーム中もタイムアウトの席でも声を張り上げ選手を鼓舞した。朝山正悟はそういうタイプではない。
しかし朝山正悟も長くこの世界で生きてきた。たくさんのものをそれぞれのチームで見聞きしてきた。その答えがおそらく突然のヘッドコーチ兼任の話の受諾に繋がったのだろう。
アンドリセビッチHCが離脱する直前の試合で、チームは愛媛オレンジバイキングス相手にホームで78-108の大敗を喫した。
迎えた12月2日の朝山ドラゴンズ初戦、敵地での信州ブレイブウォリアーズ戦は58-57というロースコアでの1点差勝ちとなった。
この試合、25分前後が多い時で30分以上の出場が当たり前の朝山正悟は6分28秒だけ出場して、その他の時間はベンチに座りヘッドコーチに専念した。
そこから朝山ドラゴンズは4連勝。そのあとアウェーの秋田ノーザンハピネッツ戦に2連敗したがその3日後にはB2西地区で首位を行くライジングゼファー福岡を96-79のスコアで撃破した。アンドリセビッチHCのもとで戦った10月25日の対戦(広島市東区スポーツセンター)では67-68で敗れた宿敵に勝った。
朝山采配には特徴がある。
当たり前の話だが、山田大治兼任ACとうまく指揮系統を引き継ぎながら40分間を戦うこと、北川弘、田中成也のチーム生え抜きのふたりにゲームを委ねる時間がアンドリセビッチHC時代より増えたこと、故障が癒えたガード村上駿斗の起用が増えたこと、選手交代の回数を抑え、選手個々が自分自身で流れを作れるように促していること、そして勝ち負けにいちいち一喜一憂せず、「あくまで目標はB1昇格」という目標を全員の前で掲げ続けていること、などだ。
ライジングゼファー福岡戦勝利の3日後、12月23日のバンビシャス奈良戦(三次公園アリーナ)にも76-78で逆転勝ち。ところが24日の試合は76-78で落とした。相手は西地区最下位だ。うまくやれば12月30、31日の茨城ロボッツ戦も含めて5連勝で2017年を終えることができた。あまりに痛い敗戦だ。
試合後、朝山正悟兼任HCに聞いた。
「きょうなど負けることが一番嫌いな朝山HCにとっては痛い負けで、チームを預かる立場として、なかなか思い通りにいかないと思うのですが、どうやってチームをまた次、また次ともっていっていますか?」
朝山「そうですね、もう言い訳はダメだと思うんですね。負けた時に何かのせいにしたりだとか、そういった愚痴は出がちだと思うんですけど、それを一切なしにしようということでやっています。ですのでそこをもう一度確認して、自分たちがやるって言った以上はやろうと、そこをもう1回明確にしない限りなかなか難しいのかなと思います。個人個人もそうですし、自分もしっかりやると言ったからにはしっかり示していかないといけない。きょうも負けたあと、個人個人いろいろなとこでモヤモヤっとしたものが必ずあると思うんですよ。それをしかっりと次の練習までに消化して、来週一週間をいいものにできるのか、ただの愚痴で終わってしまうのか、それによって成長度がぜんぜん違うと思うので、自分たちはそのへんをしっかり受け止めてまた前に進んでいく、自分自身がそれを導けるように行動したいと思っています」
「そのへんは兼任となって変わることもありますか?勝ちたいがために選手に厳しく言うとか…」
朝山「はい、それは当然あると思います。負けた直後にああだこうだ言うのは、僕も選手もやってますし身に入ることってないですね。ですから個人個人がしっかり休んで練習でしっかり反省して今年最後の試合に向けしっかり準備したいと思います」
1勝1敗に終わったバンビシャス奈良戦。相手のジェリコ・パブリセビッチHCは2006年の世界選手権で日本を率いた。クロアチア出身でサッカー日代表を率いたイビチャ・オシム氏をよく知る人物。従って人間味が深い。
報道陣はこの機会にと、ジェリコ・パブリセビッチHCに朝山正悟の兼任HCについて尋ねた。激励の声を期待して、だ。
しかし返ってきたのは厳しい言葉だった。
「山田、朝山、このふたりについては広島にとっていい状況ではない。兼任は大変難しい。今、チーム状況が苦しい中では素晴らしいことではあるが長い目で見るならこういうことは続かない方がいい」
バスケットボールの常識からすればやはり普通ではない。当然、クラブ側も「緊急措置」としての兼任制をふたりに打診し、それと並行して新たなヘッドコーチの獲得へ調査も進めている。
ただ、ここから先、年が明ければ残りの試合数はどんどん減っていく。
どのタイミングでどうなるのか?
ドラゴンフライズの名は宮島に生息するミヤジマトンボに由来する。前に飛んで決して後ろに下がらない。勇猛果敢な虫としてのトンボは「勝ち虫」と言われる。
朝山ドラゴンフライズは、B1昇格への激戦の中、どんな上昇カーブを描くのだろうか…そのあまりにもドラマ的な激闘の先で……
ヘッドコーチとしての準備もある朝山正悟はゲーム前、チームメートと別の時間帯にアップする
同い年の山田大治(中央右)とゲームの流れを見守る朝山正悟
ゴール下で懸命に守る朝山正悟
NHKのクルーが朝山正悟に密着、最終クォーター残り時間23秒、74-76、2点の場はインドでも朝山は静かに動きを確認する
ヘッドコーチとしての責任、言い知れぬ重圧はすべて自分の中に仕舞い込んで…