田中聡(たなか・さとし)専門学校・美術予備校で講師をするかたわら、広島を中心にイラストレーターとしても活動中。カープやサンフレッチェのイラストを中心に、日々のあれこれをブログに掲載しています。tnksts.jugem.jp
3万人を超えるスタンドが「おめでとう!」と、ヒーローに呼びかけた。
お立ち台の堂林は、愛知の実家から応援にかけつけた父・幸夫さん、母・弘美さんに「この場をかりてありがとうと言いたいです」と、少し言葉を詰まらせた。
そして「先輩方がいいところで回してくれたので、ここは打つしかないという気持ち」と決勝打の場面を振り返った。
勝てば再びゲーム差3、負ければ致命的な直接対決負け越…。八回、敗色濃厚の二死無勝者から、梵ヒット、田中広輔死球で一、二塁。さらに會澤、代打小窪の連続タイムリー。その間、巨人4番手の山口が投じた球数わずかに9つ。そして打席にはこの2試合、2度チャンスで凡退の堂林。
ファウルで食らいつき8球目、ひざ下に来た149キロを、ファンの夢と自身の意地とプライドとともにセンター前に打ち返した。
23歳のバースデー、カープ女子で埋まる満員のスタンド、両親の温かい視線、そして右投手より1割5分も高い左投手との対戦成績。“環境条件”はすべて整い、あとはバットをどう振り抜くかだけ、だった。
「最初はすごく力が入っていましたけど、自分の中で力を抜けと(ファウルを打ちながら)自分に言い聞かせて打席に入っていました」
押しつぶされそうなプレッシャーをはねのけて、体の反応だけで振り抜いた打球は誰も真似のできないような低い弾道できれいに伸びて行った。
試合後、野村監督は「辛抱して使っているんだから、たまには打ってもらわないと困る」という言い回しで本人のさらなる奮起を促していた。だが、このひとことはレギュラーシーズン残り40試合も「一番・堂林」が本線であることの裏返しでもある。
ここまで62試合で打率2割6分、28得点54安打57三振、盗塁1、出塁率3割4分5厘。どこにもいないタイプの一番バッターを、この日のように繋いで、繋いで得点を重ねておいく打線の中でいかに機能させていくのか?
昨年、バースデーの3日後に死球を受け、最終的にはチームメートのクライマックスシリーズを”外野“から観戦した堂林の思いは本人にしかわからない。そして首位からBクラスまでが5ゲーム差の中にひしめくセ・リーグの結末も、堂林のプロ5年目の”成果“のほども、まだ何ひとつ…、決まってはいないのである。
公式携帯サイト「田辺一球広島魂」、8月17日コラム「H・B・D HERO!」より抜粋。
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