「このホームランは、あなたたちのために打ちました」
満員のスタンドが大きく沸いた。その中に姉さん女房、サンディー夫人や愛する子供たちの姿を見つけることができただろうか?
延長十回、二死一、二塁。丸・敬遠、エルドレッド・空振り三振でこの試合4タコだったロサリオに打順が回ってきた。マウンド上には日本ハム・増井。ボールカウント2-1から振り抜いた打球は、レフト二階席の向こうへと消えていった。
3日前にもお立ち台に上がったばかりだったがその時とはくらべものにならないほどの歓びが183センチで100キロ以上、というパワフルな体の中にあふれていた。
1995年に15勝を挙げたロビンソン・チェコや、97年に在籍後、メジャーに移籍して素晴らしい数字を積み上げている現ヤンキースのアルフォンソ・ソリアーノらが巣立ったドミニカ共和国カープアカデミーの出身。
その長打力に目をつけた球団側がキャンプイン前日の1月31日に契約金10万ドル、年俸10万ドル+出来高(ともに推定)で契約した秘密兵器が5カ月もたたないうちに大きく花開いた。
エルドレッド、キラの“主砲2門”に加え、バリントン、ミコライオのふたりが投手陣の屋台骨を支える広島にあって、ロサリオの出番は常に“期間限定”とされてきた。
4月23日、待望の一軍昇格を果たしたものの5月3日には出場登録を抹消された。5月24日に再昇格したが戦線離脱中だったミコライオの再登録に伴って6月2日にまた二軍に戻された。
ロサリオの素晴らしさはその後の態度や言動に現れている。
「仕方ないけど自分は与えられた環境でベストを尽くす。チームの勝利に貢献できる選手になることが目標だから…」
ファームの若手らと泥にまみれて打ち込む姿は一軍の時と何ら変わることはない。
そして6月12日、3度目のチャンスを手にしたあとはスタメン7試合すべてでヒットを放ち合計22打数の10安打1ホーマーの打点6と打ちまくり、この日のサヨナラホームランでチームに9連敗のあとの5連勝をもたらした。
ロサリオの素晴らしさはその対応力の速さにある。
4月は23打数5安打、5月は23打数10安打…、そして6月はこれで8試合連続ヒット…、どんどんその打撃を進化させていっている。
二軍再調整中のキラの不振で巡ってきた今回のチャンスで大きな仕事を次々にこなす25歳の若き大砲。17歳年上の夫人から今夜はどんな言葉をかけられるだろうか?