あらい、さーん!
お帰りなさーい!
お立ち台のアナウンサーの呼びかけに今季最多、3万1661人のファンの声が広島の青い空に向かって広がって行った。
7回零封で今季3勝目をマークした前田健太の隣で新井貴浩が言った。
「ほんとあの、夢みたいで最高です、ありがとうございます」
昨年11月の阪神退団、広島復帰、そして黒田博樹の同時復帰に開幕前の右ひじ痛…。
いろいろなことがありすぎて、そしておよそ半年を経て広島の「四番・新井」がついに初のマツダスタジアムお立ち台に立った。
かつて自分も野球少年だったころ、こどもの日に父親に手を引かれて訪れた旧広島市民球場で山本浩二や衣笠、高橋慶彦ら赤ヘル軍団を応援した。帰りは市内の自宅まで親と競走して帰った。プロ野球選手になるのが夢だった。
ドラフト6位で赤いユニホームに袖を通し紆余曲折を経て不動の四番の座についた。エース黒田が最多勝、自分はホームランキング、というシーズンもあった。だが2007年オフ、二人同時に広島をあとにした。特に生まれ育った街に別れを告げる新井の思いは格別だった。
チームは開幕から大苦戦を強いられたが右肘痛などで出遅れた分、ベンチでもどかしい日々を過ごすことが多かった。ロサリオに代わって四番に固定されたのは今季16試合目、マツダスタジアムであった中日4回戦からだった。
そこから新井の本当の戦いが始まった。「いろいろな経験をしてきたからこそ、大切なのは心だと思う」その思いを胸に秘め、最下位に沈むチームが「打てない」「打てない」と言われ続けても、がむしゃらにバットを振り、一塁ベースにヘッドスライディングしたりの全力プレーで爆発するチャンスを探ってきた。
だが4月22日の栃木では「スミ1」失点の前田を援護できず、4月28日のマツダスタジアムではスコアボードにゼロ8つを並べた大瀬良に1点も取ってやれなかった。5月最初のヤクルト戦では無理を押して登板した黒田への援護も十分にできなかった。
だから大事な首位巨人との3連戦を迎えるにあたり気合いを入れ直した。昨夜は、同じ広島出身の巨人先発・田口攻略のノロシを上げる同点適時打。そしてこの日の第2戦では初回の第1打席で巨人先発の杉内から左翼線ぎりぎりに弾む先制2点適時二塁打を放ち、さらに初回の第2打席でも二番手の笠原から2点適時打するなど3安打5打点でチームに連勝を呼び込んだ。
「きょうは援護できてよかったです。みんなそう思ってやってますし、投手陣に負担をかけているので もっともっと点をとっていきたい」
そして…
「カープファンのこどもたちに、いい一日になってほんとよかったです」
開幕からちょうど30試合を消化して、このタイミングでカープファンへ直接伝えたメッセージ。スタンドからの温かい反応をまたその胸にそっと仕舞い込み、助走を終えた広島の背番号28は、チームとファンのためにもうすぐ広島の「空を撃ち抜く」大アーチの量産体制に入る。