画像は鶴岡一人記念球場のある呉市のワンカット
令和2年夏季広島県高校野球大会(広島県高校野球連盟主催)第9日は、8月6日と9日に挟まれた8月8日、戦艦大和を世に送り出した呉市の鶴岡一人記念球場で準決勝2試合を行った。
戦後75年、平和があってのスポーツ…
戦前、スポーツ王国広島の一翼を担った呉では学童オリンピックが開催されるなど街を上げての取り組みで数々の栄光を手にした。鶴岡一人記念球場はまさにそうした空間の中にある…
この日の最大の注目は、明治時代の創部で軍都として発展する広島の空の下で、被爆後は戦後復興の6つの川が流れる街で己の技を鍛えてきた広島商と、広島商出身の岡崎監督がIT野球を駆使し創部13年でベスト4まで勝ち上がってきた武田が対戦すると、どんな化学反応が起きるか?だった。
広島商の先発はここまで32回を投げわずか2失点の左腕高井。
一方の武田は22回3分の1を投げ31奪三振の本格右腕久保田。
プロ注目のふたりの投げ合いは初回ともに3者凡退の立ち上がり。しかし二回から試合は動いた。
先攻めの武田は2年生の四番田中が四球で出塁。すぐにけん制に刺されたが、続く高間は初球を中前打。併殺打のはずが敵失に救われた一死一、二塁から七番具志が前進守備の中越えに先制二塁打。さらに二死から九番岡本の三ゴロも敵失を招き3点めを手にした。
創部121年で部員数144人の広島商に武田が勝つにはどうするか?
この3-0の展開は最初に訪れたそのチャンスだった。
ところがその裏、久保田は先頭の四番川野を歩かせた。続く天野を2ストライクと追い込みながら勝負を焦ったのか甘い球を投げ、大飛球がセンターへ。重松は一度グラブに入れたかに見えたがフェンスにぶつかり保持しきれなかった。
2点差になりなお無死三塁。六番竹中にも中前適時打されリードは1点に。迎えるバッターは主将の中島。ここで一塁線にセーフティ気味のバントを決められ無死一、二塁に。続く高井の送りバントは久保田の前に転がってきたが結果は野選でとうとう無死満塁…何とか一死は奪ったものの一番寺本に同点犠飛を上げられた。広島商伝統の”機動力野球”はわずかなスキを突いてくる。
続く四回、久保田は二死から、勢いづく広島商の四番、五番に連続長打を打たれて勝ち越された。マウンド上で噴き出す汗を拭う場面が何度も繰り返された。炎天下で体熱の放散がうまくいっていなかった可能性がある。
武田が勝つ2度めのチャンスは直後の四回に訪れた。
一死後、久保田自ら中前打。九番岡本もヒットで続いて一、二塁になった。
打席には今大会、一番に固定され快打を連発してきた1年生の住吉。第1打席は内角真っすぐを見逃し三振。二回の第2打席も見逃し三振。この打席もボールカウント3-1から真っすぐを見送りフルカウントになったあと高めの速球に空振り三振した。
高井との対戦を考えれば別のプランもあったかもしれない。しかし、ずっとスタメンを固定して、この九人で、コロナ禍による特別な夏に新たな旋風を巻き起こしてきた。100年の伝統に挑むからと言って自分たちのスタイルを変えることはなかった。
続く二番重松の初球が暴投になり二死ニ、三塁。だが重松は遊ゴロ。
これが武田にとっての最後の反撃の機会になった。五回以降は無安打で、死球の走者を一度出したのみでゲームセットを迎えた。
高井の方は久保田とは対照的にあまり汗もかかず、ユニホームが泥にまみれることもなく、たんたんとアウトカウントを重ねて行った。が、球数は五回ですでに100球を超え、あすの決勝のことを考えれば、投手交代があってもよさそうなものではあったが…そうはならなかった。
それは4試合で48得点の武田打線を警戒してのものであと同時に、新興校に対する伝統校の意地とプライドだったのかもしれない。
束になって久保田を攻略した広島商野球はさすがで、相手の良さをうまく消すことにも成功した。その久保田。入学時に120キロそこそこだった球速が最速144キロにまでアップしたという。
自分たちで工夫を重ね、自分たちで考えて練習する。身の回りに情報が溢れる時代にあって、何を選択して、どれとどれを繋ぎ合わせると自分に合ったオリジナリティが生まれるか?
武田の9人は投げても打っても、個性的な体の使い方が際立っていた。アッパースイング気味でも長打を狙うことを優先する住吉のスイングなどその最たるものだろう。
画一化されることを長らく良しとしてきたこの国の学校教育への挑戦と、言い換えてもいい。
その”個”の良さを抑え込み、決勝に駒を進めた広島商は、野球王国広島の歴史をともに紡いできた広陵と、おそらく100年に一度しかないであろう甲子園には繋がらない広島王座を懸け、8月9日の決勝で激突する。(ひろスポ!・田辺一球)
準決勝
武 田 030 000 000 3
広島商 031 100 00× 5
準決勝のもうひと試合、広陵と高陽東は3投手に24安打を浴びせた広陵が18-2のスコアで圧倒した。
広陵と渡り合うにはどうするか?本格左腕か変則左腕と強肩捕手のバッテリーを用意するしかないかもしれない。
初回の一死満塁こそホームゲッツーで潰した広陵だったが二回、三回に3点ずつを奪った。得点にはいずれも二盗が絡んだ。けっきょく七回までで計7盗塁。
高陽東は2四球を選んだ初回の無死一、二塁と先頭打者が四球で出た二回の無死一塁で先制していれば、どうなっていたか?今大会、立ち上がりで制球がバラつく広陵の主戦工藤は四回までに58球を投げて決勝に備え交代した。
高陽東 000 000 020 2
広 陵 033 01155× 18
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