夏季広島県高校野球大会(広島県高校野球連盟主催)第8日は8月2日、尾道市のしまなみ球場で準々決勝の残り1試合がありました。
すでに初のベスト8にまで勝ち上がってきた武田が2013年夏優勝の瀬戸内を投打で圧倒、15-3のスコアで準決勝に進みました。
瀬戸内 010 020 000 3
武 田 069 000 000 15
噂には聞いていましたが、まさかこれほどとは…
一部関係者以外はスタンドに入れない今回の広島大会において、衝撃的なシーンが広島ホームテレビのネット中継を通じて野球部員や関係者に伝わったことでしょう。
武田の先発はプロ注目の久保田投手。ここまで3試合15回を投げ3失点で奪った三振は24個。しかし二回に1点を先制されてしまいます。
ところがその直後から武田打線の凄まじい攻撃が始まりました。
瀬戸内は左腕の川本投手。今大会3度めの先発。初回は3者凡退の好スタートを切っていたのに、です。
二回、武田の先頭は左打ちの四番田中選手。2年生。ファーストストライクをピッチャー返しでこれが内野安打になりました。
五番高間選手の打球は詰まりながらセンター前に落ちるラッキーヒット。この日のしまなみはかなり強い風が舞っていましたが、武田の打線旋風はそんなものではありませんでした。
六番は道下選手。2年生ですが1月から主将としてチームをまとめています。高くバウンドした打球がショート頭上を越えてタイムリーに。わずか8球で追いつきました。
七番具志選手も初球ボール、2球めファウルのあとの3球めのカーブをひと呼吸溜めて中前へ。2者が還って3-1。
久保田投手二飛のあと、九番岡本選手は初球で完璧にスクイズを決めました。
一番に戻って1年生の左打ち、住吉選手は四球。二番重松マーティン選手は初球ストレートを引っ張り左中間へ運び6-1になりました。
平日は50分練習、全員にタブレット端末、インターネットツールを用いた「オンライン部活」。
昨年、オリックスに育成2位の152キロ右腕、谷岡楓太を送り込んだその練習プラス日常生活の秘密はすでに多くのメディアが取り上げています。
でも、大事なのは手法ではなく成果。そもそも他の”職場”や他の競技スポーツを経て武田に来た岡崎雄介監督の原点が、自分が汗と泥に塗れた広島商野球への”反発”にあるということを下地にしているようです。だから、武田野球の目標は、例え甲子園には繋がらなくとも広島の頂点に立ち、自分たちの積み重ねを証明することにあるはずです。
その狙いは瀬戸内のエース左腕に連打を浴びせることで新たな段階に入ったのかもしれません。
続く三回、先頭の田中選手が初球を右中間に弾き返すともう止まらなくなりました。二番手の右腕、川上投手もいい球も投げていましたが、7連打を含む打者14人で9点を加えたのです。
1年生でも一番を打つ住吉選手は右小指をグリップにかけて高い重心で早めにタイミングを取っています。からだもとても1年生には見えません。
重松マーティン選手はその血筋から理想的な体型で見慣れた高校球児のそれとはちょっと違うようです。
クリーンアップは3人ともグリップの仕方ひとつとってもずいぶん工夫の跡が見られます。高間選手が三回の第2打席で放ったレフト方向へのファウルは果てしなく場外へと消えていきました。よほど体幹を鍛えてないと無理な芸当です。
実は序盤3回の武田の攻撃の中で、ゴロアウトはひとつしかありません。選手個々の打ち方が従来の高校野球の甲子園未経験校とはかなり違っています。金属バットを木製バットのように使う…一言で表現するなら、みんなが高いレベルを目指している、ということになるでしょう。
野球は教育の一貫である。そう日本学生野球憲章に明記されています。ただ、それは何も長時間、球拾いをしたり、グラウンドに延々立って順番待ちをすることではありません。
動画やグループごとのオンラインミーティングでやるべきことを明確にして、個々が自分の空間でできることに集中し、みんなで集まって”合わせ”をやる。吹奏楽部などでは当たり前だった手法が野球でも可能な環境が整っています。あとは革新派となって挑戦するか、伝統を守りその良さを証明し続けるか?
次回、準決勝で武田は広島商と当たります。
決勝に広陵が勝ち上がってくるかもしれません。
広島商と広陵。野球王国広島の100年を優に超える歴史を作ってきた両雄に武田が挑むとどうなるでしょう?
しかもその舞台は、広島野球の歴史にふさわしい鶴岡一人記念球場です。
コロナによって一度は途絶えたはずの広島の夏に金属バットの音が再び響くようになったのは「広島王者を決めて、広島の夏に空白域を作らない」という関係者のみなさんの強い意思と努力によるものでした。
受験勉強やコロナとの共存、様々な課題と向き合いながら88チームで熱戦を繰り広げ、高陽東も含めて残るは4校。
スポーツでもっと幸せな広島へ…
2020年の広島の夏の高校野球は素晴らしい大会だっと、きっと語り継がれることになるのでしょう。
(ひろスポ!田辺一球と川風の街、七色の光取材班)
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