広島の新井貴浩内野手がきょう5月12日から東京ドームである巨人3連戦にベンチ入りする。
新井は広島復帰第1号ホームランを放った5月9日の阪神戦(甲子園)で左手の痛みを訴え途中交代。 「左手中指伸筋腱脱臼」と診断され、患部を固定して10日の阪神戦はベンチ入りしたものの、練習さえもできなかった。
しかし昨日10日には、マツダスタジアムでピッチングマシン相手に打撃練習を行いスイングができることをチェック。またファーストミットを扱えることも確認した。
ただ、手の指が「筋腱脱臼」を発症した際の対処法は通常、冷却、固定、そして安静。症状にもよるが数週間は安静にしないと治癒が遅れることになる。
バットを握るとなると、もちろんてのひらの固定も包帯も外す必要がある。実際、練習を終えた新井は再び患部を包帯で固定していた。
この日は「右腓骨筋腱周囲炎」で登録を抹消されている黒田博樹と球場内で一緒になったが、おそらく広島同時復帰を果たした二人の思いは”ここが踏ん張りどころ”ということなのだろう。
ところで黒田とともにチームを開幕から牽引する新井には忘れられない”闘い”がある。
エース黒田、主砲新井の二人がかつての広島市民球場でも広島の顔であったことは周知のとおりだが、そこに新井の前に広島の四番を打っていた金本知憲が加わりすさまじい戦いを繰り広げた”あのシーン”だ。
2004年8月3日、真夏の広島市民球場は異様なムードに包まれた。
八回を終えて1-0、完封目前の黒田は首脳陣の「七回交代」の打診も断り九回のマウンドへ上がった。翌日からはアテネ五輪、長嶋ジャパンのメンバーとしてチームを離れることになっていた。
先頭の片岡にヒットを打たれ、打席に虎の四番・金本を迎えた。しかし手負いの鉄人は5日前に中日・岩瀬の高速スライダーを左手首に受けたばかり。以来「片手打ち」で出場し続けていた。
しかもこの日はそれまでの3打席で左翼フェンスぎりぎりの大飛球と左翼線二塁打、さらに左前打と黒田の方が圧倒されていた。
4打席目はどうか?
その1球目でにわかに信じがたい光景が目に飛び込んできた。ライトポール右への大ファウル。そして3球目で再び引っ張られてライト前に弾き返された。
その後は四球、同点犠飛…、けっきょく4点を失いベンチに下がった黒田はタオルで顔を覆い人目をはばからず泣いていた。
肉体的な限界を超越した戦いの存在を新はその目で見て学んできた。そして背負う番号も衣笠祥雄さんの「元祖鉄人」の由来となった「28」。(※)
「いきますよ!我慢してどれだけやれるか、やりながらでも症状が改善してくれることを願って…」
短い言葉に覚悟がにじむ。現在6連勝中のチームは、東京ドーム3連勝で待望の貯金1になる。
※鉄人28号、横山光輝原作の漫画、ラジオドラマ、テレビアニメなど。テレビアニメ第1作オンエアは1963年(昭和38年)