前夜、スタンドの半分が赤く染まった神宮球場でヤクルトに2対3惜敗を喫した広島が、ホームラン5発で7対4と“爆勝”した。
試合を決めたのは延長十回、ヤクルト5人目の木谷から丸が放った12号ツーラン。高目のストレートを抜群の“間”と“軸回転”で押し込み、物凄い逆スピンで舞い上がった打球はライトスタンド上段に舞い降りた。
「久しぶりにああいう場面で自分のスイングができて非常に良かったと思います」
ヒーローインタビューにスタンドが沸く中、新井打撃コーチが静かに帰りのバスに向かっていた。
「技術的なことはもう何も言うことはありません。あとは相手投手の球をどう打つか?誘い球にどう対処するか?いかに集中するか?そしていかに積極的にいけるか…」
昨年、チームが悲願のクライマックスシリーズ出場を果たしたころ、丸の今後について新井打撃コーチはそう言い切っていた。
オリックス時代に二人三脚で200本安打のイチローを生み出し、さらに自身も2000本安打をクリア。しかも実働18年の間に打率3割5分8厘、3割6分6厘と2度も高打率を叩きだしたバットマンの“保証書”付きで今季の丸はスタートしたことになる。
5月末、1試合5安打で打率を3割台に戻した丸はほどなく2割7分台まで打率を落とした。すると今度は今年からプロ野球解説者として活躍中の前田智徳さんが中継ブースから丸に語りかけるようにこう言った。
「調子悪いと言う人もいますがそりゃ打率の上下はありますよ。私は丸が調子悪いとは思っていません。細かいことを気にせずしっかりと自分の目指すべき方向へ進んでいけばいいんです」
孤高の天才と呼ばれ、やはり2000本安打をクリアした大先輩もまた新井打撃コーチ同様、丸に“及第点”を与え、実際に昨年まではチームメートとして数多くのアドバイスを丸に送ることも忘れなかった。
そしてもうひとりの2000本安打名球会メンバー、丸を開幕からしばらくは一番に据え、途中からは三番に固定してスタメンで起用し続ける野村監督も惜しみなくその打撃理論を丸に伝授しその成長を見守ってきた。
昨年、140試合に出場して138安打、14本塁打を放った丸のバットは今季83試合で97安打12本塁打。確実性と長打力。相反しがちな二つのテーマを見事、両立させつつある。
加えて選球眼も冴え、球宴前のDeNA戦では2試合で6四球を数えたこともあった。7月に入って打率を2割9分台から3割1分代へとイッキに引きあげ、出塁率も4割2分前後をキープ。丸が出塁すれば四番エルドレッドの長打力がより生きる。相手投手にとってはこれほどやりにくい相手はいないだろう。
なお、丸の打席別打率を見ると第5打席以降が4割前後と極めて高くなっている。今夜の殊勲打もやはり第5打席。しかも打ったのは初球空振りのあとの2球目。
新井打撃コーチの言う「集中力」や「積極性」に今後さらに磨きがかかるようだと、近い将来トリプルスリーへの挑戦権も手にすることになる。(※丸は昨年、29盗塁で初タイトル)