六回、福留のバットから放たれた打球は乾いた打球音とともにバックスクリーンの中へ消えていった。スリーランホームランで3-4。真っ赤に染まった甲子園のレフトスタンドから悲鳴が上がり、三塁側ベンチは凍りついた。
「リーグ優勝」を明確な目標に掲げ5年間の集大成とするはずだった広島・野村監督と赤いユニホームに袖を通した”燃える”ナインの挑戦は「日本一」の可能性を残しつつ、しかしこの時点で一度、幕引きということになった。
甲子園のゲーム終了から数分後、横浜スタジアムで巨人がDeNAに6-3で勝利、原監督が8度、宙に舞った。野村監督は原監督との9月決戦に敗れたのである。
リーグ優勝を決めた巨人は567得点、531失点の得失点差プラス36。それが原監督に与えられた”戦力”で、野村監督のそれは622点と578点のプラス44点。
得失点差だけ見るとまったく互角、と言っていい。要するに両指揮官は同等の”戦力”を有しながら最後は原監督に軍配が上がった、ということになる。
8月終了時点では両チームのゲーム差はわずか「2」と広島が急接近していた。
しかし9月に入り両者の戦い方には大きな差が生じた。いきなりの直接対決で3連勝した巨人は一気に加速して16勝6敗で9月の戦いにケリを付けた。この間の得失点差はプラス43。10勝12敗の野村カープはマイナス5で不完全燃焼のまま勝負どころでスパートをかけ損ねた。
「ほんとにぎりぎりのところで3つ取れたのは非常に良かった。3試合ともカープの方がヒット数は上でした」
直接対決3連勝のあと原監督が残したコメントにはいろいろな意味が含まれている。「何で勝てたのかわからない」と原監督が漏らした試合さえあった。
巨人は広島戦3連勝で加速して9月、16勝6敗で優勝へたどり着いた。広島はその間、10勝12敗で9月の得失点差はマイナス5。巨人の9月の得失点差はプラス43の大幅”黒字”を計上した。
野村監督は9月に入って早め早めの継投に出てそれがことごとく裏目に出た。今夜の阪神戦でも二番手で送り込んだ戸田が福留に一発を浴びた。
原監督は固定できない打線の分をディフェンス力で補った。9月の1試合平均失点は2点台で、再三、試合をひっくり返される広島とは対照的だった。
昨年のクライマックスシリーズ、ファイナルステージ。東京ドームで巨人に3連敗した野村監督はその場で監督辞任をにおわせていた。しかし広島に戻ってから”続投”を決意した。それは原巨人にリベンジを果たすためだった。
優勝がなくなった今、残るは下剋上のクライマックスシリーズ勝ち上がり、日本一だけがその悔しさを晴らす道になる。