広島のエース黒田博樹の素顔」第8回
黒田博樹が黒田博樹であり続けるために
「自分を作り過ぎていないか?」
親しい知人からそう指摘されたこともある。
一方で、広島のエースとして君臨した2006年シーズンには、阪神の主砲金本の前に敗れ去り、ベンチで涙を見せたこともある。
黒田博樹はその時々で持てる力をすべて出し切り、そして2007年のオフに海を渡る決断を下した。
池の中で仲良く泳ぐコイの群れ。だが、その中の一匹だけ体が大きく成りすぎたらどうなるか?もっと大きな池へと“移される”、それは仕方のないことではあった。
2006年オフ、ファンの願いが大きなうねりとなり、「最終的には僕が他球団のユニホームを着て、カープファンやカープの選手を相手に投げるのが想像つかなかったのがこうなった(FA宣言せず広島に残留)原因です」の決め台詞。「男気」がその代名詞となり、けっきょくメジャー挑戦は1年あとになった。
そしてメジャーリーガーとして通算79勝、その間8700万ドルも稼いだ黒田は広島で鍛え上げたその剛腕が世界舞台でも十分に通用することを証明した。チームメイトやファンとの関係もやはり良好で、黒田のキャラクターは国境を越えても別格だった。
昨年12月に広島復帰を明らかにした際には「野球人生の最後の決断として、プロ野球人生をスタートさせたカープで、もう一度プレーさせていただくことを決めました」の名台詞を再び残した。
だが、これからの過去の栄光すべてが今季の広島での成績しだいで“全否定”されかねない厳しい世界であることを黒田自身はよく理解している。
それでも、いや、だからこそもう一度、カープファンの前で投げる自分の姿にGOサインを出した。
また一緒に泳ぐことになる仲間たちも7年の間に大きく成長し、見守るファンの力もさらに大きなものになりつつある。
そこに別格の存在感を持つキャラクターが加わるとどうなるのか?
平成の剛腕の物語は、広島の初優勝から40年、広島の被爆から70年の今年、最終章を迎えることになる。