特別寄稿「鏡の中の”自分たち”」
携帯サイト「田辺一球広島魂」より
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沈みきったベンチの裏で野村監督が言った。
「切り替えてやる、というしかないがこの悔しさを忘れてはいけない。選手の中にオレが、オレがという雰囲気が出てくればね…」
同じことは昨年のクライマックスシリーズ最終戦のあとにも聞いた。言葉だけ、なら何度でも言える。大事なのは勝敗ではない。同じ過ちを繰り返さないことだ。
プロ7年目で未勝利の藤原に試合を作られて挙句の果てに1点も奪えず。完封負けは今季6度目だが、交流戦ではもう3度目だ。
0対7のスコアは二つの大きな意味をもっている。
西武はこれで交流戦での得失点差がプラスに転じた。西武は弱くはない。
7失点の野村カープは交流戦失点が99に達し最下位ひとり旅が続く。
交流戦11位の阪神も同96でこの2チームだけが突出してディフェンス力が弱い。そしてこの両チームがセ・リーグではゲーム差なしの2位と3位…。パ・リーグの選手やファンはこのギャップをどんな風に見ているのだろう。
昨年は交流戦6連敗。今年はこれで8連敗になった。
昨年の連敗の入り口では日本ハムに1-8で完敗を喫した。さらにソフトバンクに2-10、1-10で大敗した。続いてオリックスに1-7、1-5…。
今年はどうか?
札幌で日本ハムに2-10、2-6。
マツダに帰ってソフトバンクに3-10、5-16。
マツダと呉でオリックスに1-8、0-2。
そして西武ドームで4-5、0-7。
スコア的にも、また負けが重なっていく過程もまるで一緒。
「切り替えてやる」のと“過去を忘却の彼方に消し去る”のは違う。
そういう意味では今回の西武は”オプション”だ。
「やるのは選手」とはよく聞かれることばだが、今の西武を見れば「やらせるのは指揮官」であることがよくわかる。
前回、マツダスタジアムでは3-1、6-2で一蹴した相手にいとも簡単にひねられた。
前回と今回で西武ベンチの雰囲気がまるで違う。傍から見ていて誰でもわかることだ。
勝手な憶測になるが、伊原監督がもしベンチに座っていれば、試合の行方を決定づける六回の中村のスリーランは生まれていなかっただろう。
6月9日のヤクルト戦(神宮)と、昨日と今日。中村は第1打席で3試合連続で三ゴロ併殺打を放っていた。
神宮に乗り込み、通算250本塁打まであと2本…。王貞治さんのスピード記録と比べられる立場にあった中村は上体の開きが早くなっていた。9日のヤクルト戦では第2打席も見逃し三振。第3打席で左翼越えに叩き込んだあとも、首をひねりながらホームに還ってきた。
明らかに一発を狙っての打席が続く中、伊原監督なら中村にどんな声をかけただろう。一方の田辺監督代行は適切な距離感を保ちながらその様子を見守っていた、と推察できる。
そう、中村はホームランになる球をひたすら待ちながらこの日も2打席を“浪費”し、そして第3打席も外角一辺倒の配球をボールカウント3-1まで見送り、滲み出す手汗を感じながら仕留めることのできるコースに入ってくる球を待っていた。そして文字通りひと振りでレフトポール際に打ち込んだのである。
早急に結果だけを求めない。力を持った選手にはのびのびやらせる。西武のチームカラーはそういうものだ。
伊原監督は就任したてのころ中村に「西武鉄道の初乗り料金は、いくらか知らんだろう?」と問いかけたという。
中村が「知りません」と答えると、「140円だよ、140円!」…。
言った側は、激励やジョークの意味を込めているつもりでも、言われた側はもうそれだけで、アレルギー反応が起きるようにもなる。
伊原監督は自分自身で才能あふれる選手が集うチームをダメにしかけていた。野村カープはそんなチームの上にはいけても、4シーズン連続Aクラスの地力を発揮し始めた田辺ライオンズには歯が立たない。
「今の野球をやってたら、首位がどうこうじゃない!自分たちの野球をしっかりやっていけるように…」
野村監督がそんなコメントを口にしたのは5日前のマツダスタジアム、オリックスに1対8で敗れて首位から滑り落ちた日のことだった。
しかしいくらファンが声をからして応援しても事態は変わらず増えるのは黒星の数だけ…。
そして、西武ドームに来ても、そのスタンドは今年もまた見事なまでの赤と青の左右対称の風景が広がっていた。
そう西武ライオンズの青は、赤いカープの何たるかを映し出す「鏡」なのである。