夕方の渋谷の様子(5月、広島新サッカースタジアム取材班撮影)
複数の民間事業者が東京都に対して、都内渋谷区にある都立代々木公園の中に「複合型サッカー専用スタジアム」の建設を提案している。大ニュースだ。7月28日に都の関係者らが話をしたという。
一方で政府は7月26日に新国立競技場を東京五輪後に球技専用とする方針を固めたばかり。この”2案”がほぼ同時に表に出てきたのは、スタジアム運営にあたっての”キラーコンテンツ”争奪戦が都内で始まる前触れなのだろう。(要するに国と都のせめぎ合い、である)
代々木公園内に計画されるスタジアムは約4万人規模。総事業費は約400~500億円で広島が考えるものより遥かに規模が大きい。そして、J1のFC東京本拠地化を目指している。FC東京もサンフレッチェ広島と同じで本拠地は陸上トラックのある味の素スタジアムを使用中。このスタジアムは都が中心になって出資した株式会社東京スタジアム所有。…なので、当然の流れではある。
資金は民間事業者が負担する。そこで登場するのが、昨年に完成したガンバ大阪の本拠地である市立吹田スタジアム(大阪・吹田市)方式。法人と個人から寄付金を募り、スポーツ振興くじ(toto)の助成金を加える。
吹田市の場合はガンバ大阪が主体性を持って寄付金を募り、建設資金140億円を集めスタジアムを完成させた後、吹田市に施設を寄付した。ガンバ大阪は指定管理者となってスタジアムを使用、活用している。
※サンフレッチェ広島久保允誉会長もこの吹田方式を広島市に提案済みだが、広島市は受け付けていない。この問題はまた別の機会に。
都立代々木公園は、指定管理者となっている都公園協会が管理している。スタジアムなどの建設予定地は都から借り受ける形になる。もし都が「土地代はサービスしますよ」と言えば激安にもタダにもなる?
広島で言えば、現在、旧広島市民球場跡地で開催される”飲み食いインベント”ほか一連のイベントに場所代はかかっていない。広島市が”サービス”しているからだ。
都立代々木公園の中に建設を目指す「複合型サッカー専用スタジアム」は完成時期も一応、はっきりしている。建設開始は2020年東京五輪・パラリンピックのあと。2025年までの完成を目指す。
ここが広島とは大きく違う。完成時期についての目標が、驚くべきことに広島にはない。Jリーグ誕生から「スタジアム」と言い続けて、今なお広島市の担当部署には「建設担当」ではなく「調査担当」の名前しかない。
よって、広島の場合、いついつまでに作りますよ、誰も言わないことが最大の問題である。だから街中で聞いても多くの人が「建設する気ないでしょ」ということになる。
無論その責任は、松井市長にある。
東京都内はJリーグが誕生して以降も長らく「サッカースタジアム」空白地帯となっている。そこに今回、ふたつの”球技専用”スタジアム案。国内情勢や消費動向、スポーツの持つ魅力、エンターテイメント性、収益性を考えた場合、我が国は”そういう時期”を迎えている、ということにもなるだろう。
中でも代々木スタジアム(勝手に命名)の場合は、その計画案によると若者文化の発信拠点である渋谷界隈のブランド力を生かした、エンターテインメントの要素を存分に取り入れた複合型スタジアムとなる模様だ。要するに「試合開催日以外でも365日賑わうスタジアム」…。
サンフレッチェ広島関係者が早くから打ち出し、ひろスポ!でも何度も取り上げながら、これまで広島では”絵に描いたモチ」の域を脱していなかったことが、都内で先に実現しそうな勢いだ。
渋谷の街はすでに成熟しているが、一方で建物の老朽化も進み、現在、渋谷駅街区土地区画整理事業はもとより、大規模再開発があちこちで始まっている。どんどん表情を変えていく街の魅力は日本人だけでなく外国人にも高く支持され、多国籍化した空間に複合型スタジアムはよく似合う。
そう、まさにそんな魅力的な空間に、音楽フェスやさまざなイベントなどを開催できる新たな舞台装置をはめ込むのである。マチナカ複合拠点に商業施設や飲食店などを併設するのも渋谷の街が得意とするところで、もちろんこどもたちや都民のための開かれたスタジアムとしても活用される。
建設予定地は、代々木公園内南部にある球技場と織田フィールドと呼ばれる陸上競技場周辺となる。NHKの渋谷放送センターがすぐそばにあり、メディアとの協調関係を築けることもスタジアム運営にプラスになる。
当たり前の話だがアクセス抜群、JR山手線原宿駅や千代田線代々木公園駅など複数駅から徒歩10分前後という好立地にある。(つづく)