前回王者ドイツがメキシコ戦を迎える日のドイツ・ベルリンで見つけた新聞。ベルリンの壁にひっかけて、「今日、我々は絶対に越えられない壁を造るよ」とある(トップ画像、撮影はひろスポ!ドイツ取材班)
サッカーは「終わるまですべて起こる」
あのイビチャ・オシム氏がそう言っていた。
そのために、わずか2カ月で何をすべきか?
「小さな奇跡を起こしたい」(西野朗監督)。
そのために、できることは何か?
勝負は一瞬で決まる。
FIFAランキング60位と16位のキックオフ。4万4000人規模のサランスク、モルドヴィア・アリーナの屋根に跳ね返される大歓声、見上げる空の青と、ついにそのピッチに駆け出す青。
開始から2分とちょっと。GKダビッド・オスピナとの1対1、大迫勇也のシュートは止められたが、香川真司がその跳ね返りを左足でダイレクトシュート。カルロス・サンチェスのハンドを誘発して相手にはレッドカードが、こちらにはPKが転がり込んできた。
偶然、ではない。必然だと信じて。
過去3度対戦して勝ったことのない相手、4年前に完膚なきまでに叩きのめされた相手に対して「コロンビアを倒すために準備はしてきた」と西野監督は言ってきた。そして「自分たちからアクションを起こして、ボールを、ゲームをコントロールしたい」とも語っていた。
監督”緊急就任”以来、一向に収まることのない逆風と重圧の中で「チームとしての危機感はまったく感じておりません」と、”小生意気な”メディアの質問に対しても静かにクールに返してきた。
5月31日、代表メンバー23人発表。その翌日の新聞の見出しは「沸かぬ会場」「寂しい船出」。それを見た読者も”そうだよね”となるに決まっている。SNS全盛の時代、気にしていたらキリがない。
3度の対外試合は緻密な計算のもとに行われたはずだ。注目のロシア本番のピッチにはW杯初出場の昌子源や原口元気も立った。最終強化試合、パラグアイ戦に続けてのスタメンは昌子、香川のほか、柴崎岳、乾貴士。
そこに31歳の長友佑都、3大会連続キャプテンで34歳の長谷部誠も予想通り加わった。
「いかにも西野さんらしい、バランスを重視したメンバー構成」サッカー関係者の間からはそんな声が上がっていた。
前半39分、コロンビアに追いつかれたが、だからといって相手がもとの11人に戻る訳ではない。
最初の3分で香川がPKを決め、相手が10人になった時点で過去の力関係も今のFIFAランキングも関係ない、ただ強い方が勝つだけのピッチになっていたのだから…
後半14分、コロンビアは体調の万全でないハメス・ロドリゲスを起爆剤として投入してきた。チームの余力があまりないことを考えて、残り30分で”格下”の相手から勝ち点3、ということだったのだろう。
しかし2点目を奪ったのは日本だった。ロドリゲスが出てきたその10分後、香川から31歳の本田圭佑。スタンドの大半を埋めたコロンビアサポーターを黙らせたのはその3分後。本田、酒井宏樹、大迫と繋いでもぎ取ったCKを本田が蹴り、それを大迫が頭で押し込んだ。
終わるまで、最初から最後まで、日本はけっきょくのところ自分たちのスタイルを保ち続けた。もちろん1点目を取る時間帯は早過ぎたし、筋書では0-0の後半勝負どころで本田…だったかもしれないけれども。
でも、前回王者ドイツがメキシコに0-1で敗れ、何が起こるか分からないことはみんな知っていたはずだ。
それなのに、”油断”は必ずどこかに存在する。ドイツもたぶんそう。4年の歳月を投じて準備してきたコロンビアも、だ。それだけの時間があれば初戦に「万全の態勢」(コロンビア、ホセ・ペケルマン監督)で臨むのは当然だ。
西野監督の初陣、5月30日のガーナ戦(日産スタジアム)は0-2完敗だった。新聞に「ハリル監督に笑われる」など、書かれ放題だった西野ジャパンはそんなことより”選手の「経験値」をコロンビア戦にどうぶつけるか、それを模索し続けていた。
ある日、練習の合間に本田のもとへ歩み寄り、身ぶり手ぶりも交えて話し込むスタッフの姿があった。森保コーチだ。そう、サンフレッチェ広島を4年間で3度のJ1王者に導き、クラブW杯で3位の座についたたその手腕、その引き出しの多さもまた”世界基準”…
サンフレッチェ広島、3度目の「日本一」は、浅野拓磨というスーパーサブを自在に起用することで引き寄せた。その時の記憶と記録も当然、紫の封印を解いた引き出しの中には仕舞ってある。
バックアップメンバーとして日本代表に帯同し、コロンビア戦勝利をその目で見届けた浅野拓磨は翌20日、チームを離れて帰国の途についた。
その先は2022年、W杯カタール大会に続いている。
日本時間の6月20日、午前7時台のNHKニュースの中で西野監督について聞かれた山本昌邦氏はこう話していた。
「感情のマネジメント」「選手を委縮させない、その勇気が1点目に繋がった」「岡崎、山口、本田の投入」「相手の分析」「香川と本田の競争」「結束力と競争」…
山本氏もよく知る、かつての砂漠とラクダと朝市の街は、超高層ビルが居並ぶ近代都市へとその姿を変えたが、日本が世界と渡り合うための原風景は、きっとまだ残っているはずだ。
確かに、あの時、あの瞬間には、西野氏らの目の前にあった大きな夢は砂漠の蜃気楼のように消えたのだけれども…
マイアミもそう、サランスクもそう。積み重ねたぶんだけ多くのことを背負い込み、同時にもっと強い相手と戦うために、”みんな”またそこに戻って行く。たぶん「つい昨日のことのようだね」とつぶやきながら…
広島スポーツ100年取材班
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