田中聡(たなか・さとし)
専門学校・美術予備校で講師をするかたわら、広島を中心にイラストレーターとしても活動中。カープやサンフレッチェのイラストを中心に、日々のあれこれをブログに掲載しています。
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特別寄稿、携帯サイト「田辺一球広島魂」コラム「2014エースの条件2」より
「きょうこうやって赤く染めてくださったファンのみなさんに捧げたいと思います」
大瀬良の声がマツダスタジアムに響き渡った。よく通る声だった。
6連勝で勢いづく阪神にひとりで挑んでいった。
「石原さんのミットだけを見て思い切り腕を振りました。それだけです」
過去2度の経験を糧に原点に戻ることがきた。
負ければ首位交代。大事な試合に「一番堂林」の積極策を決断したベンチの策は不発(2打席連続三振を含む3の0、途中交代)。二回に梵のゴロが併殺となる間に取ってもらった1点を五回まで守り切ると、その裏には自ら2点適時打。しぶとく投げ続けていた阪神ドラ6ルーキー岩崎との勝負にケリをつけた。
「目標を持つこと、人とのつながりを大切にすること、何事にもチャレンジする気持ちを大切にしてください。先生もこれからが勝負です。来年からテレビの前で応援してもらえるよう頑張ります」
昨年12月、長崎件諫早市にある母校・長崎日大高校で後輩たちに向けそう語った。教育実習最終日。自分を見つめる1000人以上の視線からは感じるものがあった。
開幕から2度勝てないままきょうを迎えたが、変な焦りも動揺もなかった、「何ごとにもチャレンジする気持ち」は少々のことではグラつかない。自らが発した言葉は懐かしい母校の体育館で“共鳴”して、また自分の耳に還ってきた。
自分が誇れるのは「気持ちを前面に出していくことだけ」。だから重量級打線に対しても最速149キロのストレートを憶せず投げ込んだ。と同時に「一発」を警戒して、右打者へのスライダー、カットボールのコントロールには気をつけた。
多少、外側に遠く外れても、今度は懐を攻めるなど石原のリードに導かれて“らしさ”を存分に発揮した。
六回にはセンター丸のお手玉で1点を返されたが、そのあとのマートン、新井良太、福留を力でねじ伏せた。3巡目ともなれば通常はこのあたりで簡単にはアウトを取れなくなる。しかし、わずか6球で反撃の芽を摘み取った。一発長打のある百戦錬磨のバッターと対峙して、いや、だからこそ気持ちで相手を圧倒した。
7回を投げ5安打自責ゼロ。プロ初勝利がその手の中に収まった。これから先、幾度となく先発マウンドに上がり、どれだけ勝利を重ねてもこの1勝がその始まりになる。
バットをへし折り、飛んできた破片をジャンプしてかわし、自らのバットでもチームの勝利に貢献する。マエケンがデビュー当初から兼ね備えていたスーパースターの5条件。「意外性」「表現力」「スマートさ」「可能性」「明るさ」と同じ匂いがする。
「ぶち最高です!」スタンドに向けそう叫ぶ背番号14もまた、日本を代表する右腕に向けてその階段を上がり始めた。
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