インバウンド(注・ワンバウンドは野球!インバウンドは外から入ってくるの意で海外からのビジターなどを指す)の急激な増加は広島でも顕著で、マツダスタジアムでもこうした風景が普通になってきた、旧広島市民球場跡地にサッカースタジアムができれば、広島は野球とサッカーで国内ツートップをはれる可能性大、である。
広島はかつてスポーツ王国と呼ばれた。大正から昭和初期にかけて広島のスポーツは国内最強!1928年(昭和3年)、アムステルダム五輪で日本人初の五輪金メダルを獲得した三段跳びの織田幹雄さんに代表される広島アスリート、広島の競技者たちは世界を舞台に活躍した。
そのDNAは今もサンフレッチェ広島やJTサンダーズなど多くの競技スポーツに引き継がれている。
そして2020年、東京五輪開催へ。我々、広島人はこれからスポーツとどう向き合い、国際平和を希求する広島はどうあるべきなのか?
その大ヒントが4月7日に発表された、ある「提言」の中に明確に示されている。
「提言」と言えばサッカースタジアム検討協議会の3者会談へ向けた最終とりまとめを思い出す。しかし、この際、その話はひとまず脇に置いといて、今から紹介する「提言」に注目してみたい。
その名は…
「スポーツ市場の拡大に向けた提言」
自由民主党政務調査会(稲田朋美会長)とスポーツ立国調査会(橋本聖子会長)の連名による。
お馴染みの前者は学識経験者で構成され、党の政策について調査研究や立案を行い審議決定する。
スポーツ立国調査会は自民党が2007年秋にスタートさせた。スポーツを政治が後押しすることでより豊かな日本を目指す。
その後、2013年9月には東京五輪招致に成功。2015年10月にはスポーツ庁が設置された。
国策としてスポーツをどう支援していくのか、その具体的な諸策の検討が急がれる中、1月末、自民党はポーツ立国調査会などの合同会議を開き、スポーツビジネス小委員会を設立した。
小委員会はスポーツ施設や大会運営などに民間の資金やノウハウを取り入れ、スポーツ産業を育成、発展させることが目的で、当面は競技場を活用していかに収益を上げるかを議論する。
この時、委員長を務める牧原秀樹衆院議員は「日本のスポーツ施設は大半が赤字運営。ビジネスとして捉え直し、市場拡大につなげたい」と述べたという。
うーん…、どこかで耳にしたような…
などとボケている場合ではない!これはまさに広島におけるサッカースタジアム問題そのもの、だ。
スタジアムを「ビジネスとして捉え直す」。
もう、このひと言だけで十分だろう。
もしもあなたがどんな形態であるにせよ「スポーツでビジネスをする」なら、広島みなと公園を選ぶか、それとも旧広島市民球場跡地を選ぶか?
もっと言えば、何度も松井市長が引き合いに出すカープが、「それじゃ宇品と現在地(旧広島市民球場跡地のこと)なら、どっちを選んだか?」(この発言はスタジアム問題関係者)、ということを考えれば明白だ。ちなみにサンフレッチェ広島、久保允誉会長は旧広島市民球場跡地を選択した。
しかもスポーツビジネス小委員会は「市場拡大」をうたっている。このことがまさに冒頭の「スポーツ市場の拡大に向けた提言」の中に次のように書いてある。
提言のポイント
基本的な考え方
・スポーツ文化の深化。スポーツを生活の一部とし国民の健康増進への貢献。
・「体育」から「スポーツ」へ(コストセンターからプロフィットセンターへ)
・スポーツ市場を2~3倍へ、GDP600兆円へ貢献。
具体的施策
1 スタジアム・アリーナをコストセンターからプロフィットセンターへ。
・施設整備の在り方をいわゆる「国体標準」から抜本的に改革~施設ガイドラインの策定~
・PFIなど民間資金を活用したビジネスモデルを開発。
・中心市街地の活性化やスポーツを核とした街づくりを担う「スマートベニュー」の先進事例を自治体などと共同で形成。
2以下は割愛
以上、「提言」内のコストセンターはコスト(費用)からの発想しかなく「金食い虫」とか「負の遺産」と称される、全国津々浦々の国体開催規模の体育施設などを指す。エディオンスタジアム広島でも1996年に国体が開催されており、この”仲間”に属する。
2002年の日韓共催W杯の時にもコストセンターが数多く誕生した。その結果、アクセスの悪い宮城スタジアム、大分スポーツ公園総合競技場などは今、大変な状況に直面している。
仙台や大分同様、エディオンスタジアム広島もお客さんに楽しんでもらうために造られた施設ではない。しかも国際大会も可能な陸上競技場であって、サッカーはオプションに過ぎない。当然、サポーターなどリピーターのことを念頭に造られてはいない。そこには「スポーツ市場」に向けた工夫もない。エディオンスタジアム広島が造られた1990年代初頭には、本来ならあるべきそういう発想が欠落していた。
エディオンスタジアム広島ネーミングライツによる呼称であり、もとの名は広島広域公園陸上競技場である
それに対してプロフィットセンターは、プロフィット(利益)をもたらす。ゆえに1994年の広島アジア大会と国体開催に向け造られたエディオンスタジアム広島とはスタジアムのコンセプトがまるで違ってくる。
ところで、広島にはすでに国内外に胸を張れるプロフィットセンターがある。
民間(カープ)と自治体(広島市が中心)のコラボレーションで難産の末、誕生にこぎつけたマツダスタジアムだ。
いまだに「90億円で建設された」と表向きには言われているマツダスタジアムではあるが、実際にはカープ球団が何十億円も負担している。それ故、国内初のボールパークというコンセプトもカープ球団の意向がそのまま取り入れられ、それが昨シーズンの入場者数200万人越えという快記録に繋がった。広島市にボールパークの発想などないことは誰の目にも明らかで、マツダスタジアムは広島市民球場でありながらカープ球団の本拠地としての機能がすべてにおいて優先され、供用開始1年目から巨額の「プロフィット」をもたらすようになった。
カープ球団がメジャーリーグのボールパークより”直輸入”した大型コンコース。この国内では唯一の「工夫」が「プロフィット」を生み出すための最大の演出となった。当初の計画ではコンコースは周辺に新たに構築される複合商業施設やイベント機能を有する施設と自由に365日、誰もが行き来でき、「スポーツを核とした街づくり」を進める”背骨”の役割を果たすことになっていた。
ただ残念なことにマツダスタジアムは、先の「提言」にある「中心市街地の活性化やスポーツを核とした街づくりを担うスマートベニューの先進事例」にはなりえない。
マツダスタジアムの建設場所は、かつての貨物ヤード跡地。周囲を倉庫群や貨物運搬作業施設に囲まれている。そこには一般の消費者や市民、県民、国内外からの来訪客のニーズがない。そのためマツダスタジアム完成から8年目を迎えても「プロフィット」の広がりが限定的なものとなっている。
それはマツダスタジアムでのカープ戦終了後の人の流れからも確認できる。大半の入場者はそのままJR広島駅方面かそれぞれの駐車場へ向かう。あるいは徒歩やバス、路面電車で流川、八丁堀、紙屋町方面に向かう。これでは「スポーツを核とした街づくり」は進まない。
JR広島駅地区と八丁堀、紙屋町地区の両者をひとまとめにした「楕円形の都心」が語られるようになったのは広島市の秋葉前市長の時代の終盤からである。この両者は近くて遠い、というのが広島市民の感覚ではないか?例えば渋谷と原宿や東京と銀座などとはだいぶんその様子が違う。また博多と天神とも違う。双方を結ぶ動線が広島の場合は弱すぎる。
先の「提言」にある「スマートベニュー」は株式会社日本政策投資銀行により命名された。その説明には次のようなことが書かれている。※は広島新サッカースタジアム取材班の補足
わが国はこれからかつて経験したことのない人口減少/高齢化社会の到来を控えており、国・自治体の財政状況もこれまで以上に厳しくなることが予想される。(※今の広島県もまさにそうだ)
財政状況が厳しくなる中では、財政上効率よく都市機能の集約を図っていく必要があることから、その解決策の例としてコンパクトシティの推進や「多機能複合型」施設の整備(※久保允誉会長案がまさにそう)が考えられる。
さらに、その中核施設として、域内外から人が集まり交流することができるようなスタジアム・アリーナ等を据えることは、地域社会のコミュニティ形成にも資するところとなる。(※故に広島みなと公園はNG、ひろスポ!調べで広島県内外からの支持率が限りなく0パーセントに近いような場所ではスマートベニューにならない)
これからのスタジアム・アリーナ等は、多機能複合型、民間活力導入(※これも久保案)、街なか立地によりコンパクトシティ推進の中核拠点として整備され、サステナブル(※持続可能なという意味)な施設として永続的に事業運営されることが望ましい。
当行では、「周辺のエリアマネジメント(※マツダスタジアムは大事なポイントである、この周辺へのインパクトが弱い)を含む、複合的な機能を備えたサステナブルな交流施設」として地域の交流空間になり得る施設を「スマート・ベニュー®」と命名し…。(以下略)
なお、株式会社日本政策投資銀行の「スマートベニュー」に関する欧州の事例研究については、サッカースタジアム検討協議会でも担当者を招き、かなり時間割いてその話に耳を傾けたが、それが最終の「報告書」にどこまで反映されたかは甚だ疑問…。
ドイツのベルリン周辺にあるスタジアムの応援風景、こうして立ち見席で、近所からやってきたサポーターたちは気軽に飲みながら応援できる(画像はひろスポ!ドイツ取材班)
「スマートベニュー」の”講義”を受けて、わざわざ広島みなと公園をその候補地に推すこと自体、まったく「スマート」ではない行為に映る。
念押しになるが我々広島人の感覚では「宇品」は「街なか」ではない。
一方「街なか」で「カンパイ!広島県」などと言いつつ!?イベント会場でビールを飲んでばかり!いるのもNGだ。それはシンパイ!広島県への片道切符になる恐れすらある。
旧広島市民球場跡地に新たなコンセプトを持ち込まず「イベント広場」としてこのまま使い続けるなら、「周辺のエリアメネジメント」どころか、既存の飲食店、商業施設への”営業妨害”になりかねないし、事実そんな声があちこちから上がっている。
それに広島っ子たちのことを考えればアルコールに偏りがちなイベント広場などNGだろう。(人集めイコール飲料の発想による弊害)
旧広島市民球場跡地での飲食イベント開催などの弊害については、以下のひろスポ!関連記事で指摘されている。
日頃「平和都市広島」を声高に語る松井市長、湯崎知事がなぜサッカースタジアムで「平和」を語らないのか?市長選松井市長の”私怨”から、平和の理念体現の森保監督までの考察
hirospo.com/pickup/28506.html
スマートベニュー化することで、他の自治体からセンパイ!広島県と呼んでもらうことこそが、スポーツ王国広島の真の姿だろう。
森保監督とサンフレッチェイレブンは、すでに広島にスマートアベニューの核となるソフトを提供してくれている。旧広島市民球場跡地での優勝報告会やパブリックビューイングには多くの市民、県民、サポーターが集結する。
ソフト面において広島はすでに他の都市から羨まれる状況にある。ここにハード面の整備が伴えば、スポーツ王国広島のDNAにも変異が起こる。
世界遺産、原爆ドームに接する旧広島市民球場跡地にスマートベニューが誕生すれば、広島とアジア地域、世界各国・地域との繋がりにも劇的な変化が生じるに違いない。
言葉を介さずとも通じ合うその平和的で魅力的な空間は、やがてインスタグラム投稿数でサンフレッチェ広島同様、世界トップ3に名を連ねるようになるだろう。そうなれば、宮島、平和記念公園・原爆ドームとともに世界に向けて広島最強の3トップが誕生する。
「スポーツを通じた待ちづくり」、それこそが広島が世界から求められる最優先課題であり、広島が変われるための起爆剤になる。
広島新サッカースタジアム取材班・田辺一球(福山大学・福山平成大学、スポーツとメディア、広島スポーツ学講師)