新チームになって初の練習試合のあと選手に大きな声を上げる迫田穆成監督(2019年7月28日、竹原高校グラウンド)
強打の履正社か、超高校級・奥川の星稜か、8月22日、第101回全国高校野球選手権大会決勝。
そのちょうど1カ月前、広島県竹原市の竹原高校では野球部新監督の名前が発表されました。
新監督の名は迫田穆成さん。7月で80歳になりました。広島商と如水館を春夏14度の甲子園に導いた名将です。
竹原高校
初の対外試合を見守る迫田穆成監督
竹原はこの夏、呉港と対戦して17-0で初戦敗退。新たなスタートを新監督とともに切ることになりました。
さっそく他校を招いての初めての練習試合が行われました。結果は完敗。そのあと、迫田監督は選手の前で初めて大きな声を上げました。ナインと顔を合わせた日から数えると、およそ2カ月が経過していました。
初の対外試合のあと、迫田穆成監督の話を聞く選手たち
「何でそんなにヨソを見るんか、許されることじゃないじゃないか!一生懸命なら怒る必要はない。おまえはキャッチャーで三番がなんで三振ふたつや、だからキャッチャーを替えにゃいけんとなる。お前がキャッチャーの時の方が点を取られとるんよ、そこらのことを考えないと。みんな(それぞれの結果には繋がりや原因が)あるんですよ、野球というものはね。向こうだって10人じゃないか…」
迫田監督には信念があります。不動の信念。高校野球で竹原の街を元気にしたいという目標もあります。そして「思いやりが高校野球の原点」と話します。
甲子園の大舞台で150キロの快速球を操り、あるいは何本もスタンドに叩き込むようなプロ予備軍を育てることとは別の価値を甲子園に求めます。
「甲子園で戦える子を育てること」それが彼らのその先の人生へと繋がることを確信しているからです。
ただ、広島商、如水館時代と比べれば、その置かれた環境はあまりにも異なります。新チーム最初の練習試合は9人で戦いました。審判は如水館の3年生。迫田監督が声をかけた3人が電車に乗ってやって来ました。
審判は如水館の3年生
迫田監督はそう遠くないうちに竹原を県内ベスト4のレベルに引き上げたい、と話します。練習を見守る父兄のみなさんも「子どもの話す内容が変ってきた」と実感しているようです。
竹原ベンチ、右奥に父兄らの姿も見える
8月16日、竹原は新チーム初の公式戦、秋季リーグ戦の初戦に臨みました。相手は尾道、そう今夏の広島大会決勝で広島商に10対7で敗れた準優勝校です。
試合前、迫田監督が言いました。
「ええか、五回コールドはダメよ、六回まで粘れ、そのためには点を与えないこと、わかったな」
初回こそ3点を先制されましたが、その後は迫田監督の言葉通り、竹原ナインは準優勝校相手にスコアボードにゼロを並べていきました。そしてその”約束”を守りきったあとの六回に大量失点。10対0でコールド負けとなりましたが、途中、尾道はマウンドにエース級も送り込んできました。強力打線を併殺網にもひっかけました。
あの日、迫田監督が選手に大きな声を上げたのは、選手たちがじっとその話に耳を傾けようとせず、手や足を動かしていたからです。「野球選手作りではなくて人間作り」その考えが浸透するまでには時間がかかりますが、目に見えて結果が出るようになれば、その意味も深く理解されていくはずです。
スポーツでもっと幸せな広島へ…
そう野球王国・広島には野球を通じて手にできる幸せがたくさんあります。
6歳になったばかりの時に被爆した迫田監督は、その経験を通して、生きていくために大切な多くのことを高校生たちに伝えたいと考えているのでしょう。
竹原ナイン
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