振り抜いた右腕の先に大きな、大きな達成感があった。3万人のマツダスタジアムのファンに祝福されながらヒーローが言った。「巨人時代からずっと夢みていました、初勝利より嬉しいです」。
夫人の出産に立ち会うミコライオの一時帰国で巡ってきた九回、3対1の場面での緊迫のマウンド。西武打線を相手に16球を投じた一岡竜司は、待望のプロ初セーブをつかみとった。
広島首脳陣は24日、抑えとしての役割を期待されていたフィリップスの出場登録を抹消してクリーンアップを打てるロサリオを一軍に呼び寄せた。交流戦12球団最低のチーム打率に沈む打線の起爆剤として期待されるロサリオはこの日、逆転ツーランを放ちチームの交流戦勝利に貢献したが、それも一岡の存在あっての”英断”だった。
初めて経験するセーブシチュエーションでも、一岡自慢のストレートはよく走った。
先頭の中村に対してその初球は146キロ。バットが空を切り、快速球がすごい音をたてて白濱のミットに収まった。中村にはフォークを詰まりながらも左前に落とされ、さらに代走木村に二盗も決められたが、それにもまったく動じることなく要注意のメヒアを高めの真っ直ぐで空振り三振に仕留めた。
浅村にもフォークを弾き返されたがここはショート木村の素晴らしい守備に救われた。最後は大崎をアウトローへの147キロで見逃し三振に退けた。
チームの危機を「初セーブ」で救った一岡はこれで19試合19イニングスを投げて失点1、自責ゼロ、奪った三振16に許したヒット5本だが、まだ一度も長打を打たれていない。
現在、二軍調整中の今村が2012年に29試合連続無失点の球団記録をマークしているが、これで13試合連続無失点。まだまだ数字は伸びていきそうだ。
福岡県は佐賀県と接する西の端、糸島市出身の一岡は、大分県の藤蔭高校を経て福岡市内にある沖データコンピュータ教育学院で野球を続けた。学業、練習、アルバイトの3つを共立させながら普通の学生生活を送っていた。
ストレートに磨きがかかり、在学中に15キロも球速がアップしたため都市対抗野球に補強選手として“参戦”したことが2011年の巨人ドラフト3位指名に繋がった。
しかし野球エリートと無縁の道を歩んできた右腕に都会の水?は合わなかったのだろうか。巨人での2シーズンでは一軍登板13試合で投球回数は15回3分の1だった。
それが赤いユニホームに袖を通したことで短期間のうちに新境地を拓くことにつながり、ファンの人気も急上昇。すでにカープ女子の間からは「竜ちゃん人気は堂林を超えた」の声も聞かれるようになっている。
「父の影響もあってシステムエンジニアになろうと思っていた」という一岡はマウンドを降りればごく普通の23歳。推定年俸も1000万円ちょっと…。
移動には広島市街地をカバーするライトレール(路面電車)を利用することもあり、国内でも有数の家電販売店が点在する街中では「家電製品見て歩き」…。
もしかしたら、ファンがふと立ち寄った広島市内のお好み焼き屋さんで、そのすぐ隣に「竜ちゃん」が座っているかも?チーム悲願のリーグ優勝に欠かせない右腕の、そんなふたつの顔のギャップがますます「竜ちゃん人気」に拍車をかけているようだ。