広島市が未曾有の土砂災害に襲われてから1年と1日、名古屋遠征から移動日なしでマツダスタジアムに帰ってきた広島は、3連勝で勢いづく原巨人を迎えて延長11回を戦い、3対4のスコアでまたしても1点差負けを喫した。
しかも三回に奪った3点は坂本の2点タイムリーエラーと先発ポレダの押し出しによるもの。自分たちでは1点も奪えないまま2度の雨天中断を挟み6時間21分のロングゲームを終えることになった。
こうなることは十分に予想できた。昨年のクライマックスシリーズ第1Sの甲子園、21イニングゼロ行進のまま敗退した野村前監督の時とよく似ている。
7月の終わりに一番打者の頻繁な入れ替えが始まり7月30日、今シーズン初の一番・菊池とそれに対応する二番・丸がそれ以降、昨日まで19試合続いた結果がナゴヤドームでの「打てない、守れない」の3連敗に繋がった。
昨日までで8月は8勝9敗。負け試合はずべて2得点以下で、繋がりを欠く打線の得点力不足が大事な時期を迎えて顕著になった。
中日戦3連敗を受け緒方監督はこの日、一番に開幕1、2戦以来となる鈴木誠也を組み込み、二番には今季初となる田中、丸と菊池を六、七番に下げるという配置転換を行ったがにわか仕込みでは効果なし。ロサリオ、シアーホルツ、グスマン、エルドレッドの外国人選手も日替わり起用しているうち揃って低調となり、この日のグスマンは三番を打って5の0だった。
「菊池・一番」とほぼ時を同じくして四番の座を追われた新井貴浩は、この日も4の4とチーム8安打の半分をひとりで打ちまくった。だが孤軍奮闘の個人技だけではいかんともしがたい閉塞感が今のチームを包み込んでいる。
そんな沈滞ムード漂うマツダスタジアム一塁側ベンチ前に、まるで何かを訴えかけるように何度もできた雨のカーテン。外野が白く煙るほどのその雨量…。そういえばあの夜の広島市中心部も、かつて経験したことのないほどの豪雨に見舞われた。
「ひろスポ!」に届いた市民・ファンのメールの中に次のような「声」があった。
「黒田が帰って来るから優勝出来るだろう、新井が帰って来るから優勝出来るだろう、菊丸は今年も活躍してくれるだろう、ヒースは抑えが出来るだろう、今年も横浜と中日には勝てるだろう…。24年優勝した事の無いチームが、保証の無い沢山の大丈夫だろうに勘違いしていた事が日に日に明るみになってますね。せめて、胸にHIROSHIMAの文字を刻んでいる以上、ピースナイターや土砂災害から一年経った今日は、広島を背負って戦っていただきたい。カープと広島の歴史を紐解けば、(中略)カープは広島の象徴でも何でも無い…」
一日遅れではあったにしても、試合前に両軍ベンチと3万観衆で埋まるスタンドが大規模土砂災害に思いを馳せ、黙とうするものとばかり思っていた。
しかし、通常通りの流れでのプレーボールとなり、日付の変わった試合後、ずぶ濡れのスタンドに向け選手らが頭を下げたのも三塁ベンチ側だけだった。
1年前の8月20日、午後7時からエディオンスタジアム広島での天皇杯を予定していたサンフレッチェ広島は即座に試合延期を発表した。
災害発生時には横浜遠征中だった広島は移動日なしで地元に戻り、22日から「赤道直火限定ユニホーム着用」の阪神3連戦を迎えたが、チケットは完売状態のスタンドのあちらこちらに何席かずつの不自然な「空き」が生まれていた。
間違いなくそれは被災者や関係者たちのもので、しかも防災拠点になっているマツダスタジアムからはこの3連戦の最中、被災地へ向けての救援物資が何度も運び出された。マツダスタジアムから最寄りの被災地まで車でわずか20分…。
実はこの時「未曾有の災害、非常事態ゆえ初戦だけでも試合開催を1試合だけでも見送べき」という複数の声がカープ球団に寄せられた。国内はもとより世界も注視する大災害の深刻さをみなで共有し、また募金を呼びかけるには絶好の機会だった。雨は降っていなくても台風など周辺事情で試合開催が中止になることはあるし、実際、市内には「野球どころではない」市民が大勢いた。
だが球団側としての対応は限定的なもので、球団旗、連盟旗が半旗となり、スタンドの鳴り物応援が自粛されただけだった。莫大の量の土砂に街が埋まり、人も思い出も何もかもが泥と混ざり合い、全国からの応援部隊が集結して懸命に捜索が続くまさにその時期に、である。
まる1年が経過した今、被災地に生きる方たちの悲しみが癒される訳でもなく、金銭的な不安、健康への不安、居住地への不安はほとんどそのまま今後の課題となっている。
そして被爆70年目の特別な1年、1シーズン。
2015年8月21日、マツダスタジアム。広島市民・県民とともに栄光の旗を立てるはずのそのシーンは、試合を中断して降り続く雨のカーテンによって、ほとんどその視界から消し去られたことになる。
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