2010年のドラフト1位右腕が屈辱の日々を胸に、3万人を超えるマツダスタジアムのファンにメッセージを送った。
「ボクが九回表にマウンドに行く時に福井コール…、うるっときちゃって、すごくうれしかったです。これからも一生懸命がんばるんで、応援お願いします!」
やっと素直な気持ちを言葉にできた。そして「まだまだこれからだと思うので慢心せずにやっていきたいです」と公言した。
ルーキーイヤーの2011年以来の完投勝利だった。2カ月ぶりに回ってきた一軍先発のチャンスに初回、わずか6球で先制点を奪われ「もう終わったと思った」というが、同時に“ここで粘る術をお前は見につけてきたはずじゃないか!と耳元でささやく”もうひとりの自分“がいた。
怖いものなしの1年目はローテ―ションを守り8勝を挙げた。多少はテングになっていたかもしれない。当時は「人の言うことを聞かない」という声もチラホラ聞かれるようになっていた。そして2年目の5月には早々と先発失格の烙印を押されたのだった。
その流れの中、昨年はセットアッパーに向けた準備が進められたがこれも不発に終わった。そして前田智徳引退試合となった10月3日の中日戦でシーズン1度きりの先発マウンドに上がり三回途中でKOされた。初のクライマックスシリーズで熱い戦いを繰り広げるチームはどんどん遠い存在になっていった。
チームメートからも首脳陣からも「福井の球が一番すごい」という声があがるのに、決まって四球絡みで失点し、勝負球を簡単にスタンドに運ばれる。同じことの繰り返している間に野村祐輔が新人王になり、今シーズンは大瀬良、九里の新人右腕が話題を独占するような状況が生まれていた。
開幕を二軍で迎え、ゴールデンウィーク明けの神宮球場でやっと巡ってきた一軍先発マウンド。ところが二軍でやってきたことを出せないまま早々とKOされ、またしても即二軍行きを伝えられた。
本当にもう自分はダメなのか?いったい自分のピッチングには何が足りないのか?どうして球数がいつも多くなるのか、複雑なことをよりシンプルに考えるにはどうすればいいのか?
時間をかけ思いを巡らせ行き着いた答えは「自分を信じて投げること」だった。人のせいにしてもプラスになることは何もない。自分を変えることができるのは自分だけ、だった。
だから今夜の福井は何度、危うい場面を迎えようと投球リズムを変えなかった。初回には失点した直後にゴメスにぶつけ、四、五回には四球絡みで得点圏に走者を背負い、六回にも先頭のマートンに死球を与えたがそのあと最少の球数でスリーアウトに漕ぎ着けた。気持ちを込めて投じたど真ん中の真っ直ぐで相手のバットを詰まらせた。
試合後、野村監督は「本人ももがいていたけどこれで自信になったでしょう」とコメントした。もしもこの話を福井が耳にしたならば次回登板ではさらに上積みが期待できるだろう。
不安を胸にしながら浮き足立つ一軍マウンドと、ファンの声援を背に胸を熱くして踏みしめるそのマウンドはまったくの別ものである。大事なことに気づかせてくれた、この日のマツダスタジアムはきっとかけがえのない財産になる。