2月の宮崎キャンプで「プロフェッショナル 仕事の流儀」のカメラが回る中、指示を出す森保監督
NHK総合、「プロフェッショナル 仕事の流儀」でサンフレッチェ広島・森保一監督にスポットが当たった。NHK取材班が2月の宮崎キャンプから8月6日、エディオンスタジアム広島で行われた名古屋グランパス戦まで密着し、その根底にあるものを探る構成だった。
冒頭、いきなりリオデジャネイロ五輪のピッチを駆ける浅野拓磨がクローズアップされた。将来、森保監督が東京五輪代表監督、もしくはフル代表での日本人監督に赴くことを暗示させる入りとなった。
4年で3度のJ1制覇。そのリーダー像に迫るのが今回の番組のテーマで、「やる気を引き出す男」「リーダーの原点」を掘り下げる内容だった。
番組では続いて「ドーハの悲劇」の映像が流れ、どん底から這い上がりやがてチームを率いる立場になった森保監督がロッカールームでどんな表情を見せているか、がチラリと紹介された。
本編は2月の宮崎キャンプから入った。監督就任5年目。「みんなで頑張る」「監督というポストにいますけど、総キャプテンとかキャプテンのちょっと上ぐらい…」と森保監督が答えていた。
開幕に向け全体写真に収まる森保監督
開幕を迎え選手の声も紹介された。佐藤寿人は「一喜一憂しない」監督像がチームに安定感をもたらしているとコメントした。
カメラは通常の練習日の吉田サッカー公園にも入り、選手との接し方、クラブハウスでのコーチらとのやりとりなども映し出された。
特別なことはやってはいない。ただ、愚直にコツコツと「みんなで修正していく」その過程の中で、厳しい2部練習もこなす若手らの姿からチームの総合力とは何なのか、という部分があぶり出された。
「やる気を引き出す」ためのベースに選手の「心を預かる」ことへの森保監督の深い思いがあることも強調された。
その直後、場面は森保監督の故郷、長崎へ、そしてサンフレッチェ広島の前身マツダ時代の風景へと変わり、転換しナレーションも女性に変わった。
周囲に、あるいはライバル校に圧倒されながらサッカーを続けることから学んできたもの、そのあと番組では”新鮮力”を満を持してピッチに投入する森保流の何たるかが次々に紹介されていった。
「心を預かる」ことと「ドーハの悲劇」。空前のサッカーブーム、日本中が米国W杯への扉を初めて日本代表が押しあけると信じたその瞬間に、ロスタイムのショートコーナーから同点ゴール。カズもゴン中山も森保監督もみんなそこで一度は「心が折れた」。
だが「サッカーも人生も続く」だから「自然体で…」とカメラに向かって笑顔で話す森保監督。さらに「ストレスはないですね」「プレッシャーや期待を背負って戦うことはすごく幸せなこと」と続けていた。第1ステージを制覇した鹿島アントラーズの石井正忠監督(49)が先ごろ心労で現場拒否に陥ったばかり。プロ野球でも中日が長期政権とするはずだった谷繁元信監督が無念の途中解任劇。「ストレス」と「リーダー」がどう向き合うか?
森保監督の凄さはこの1点に絞り込むこともできるだろう。
もちろんそれは、これまで森保監督がかかわってきたすべての人々、仲間たちとの中から蓄積されてきたもので、その土壌こそが特筆もの、かつ広島独自の環境にあることは、残念ながら今回は触れられていなかった。
編集の関係なのか、視点が違ったのか…。まあいずれにせよ正味49分のオンエアの中では伝えきれない。
そんな森保監督の人間像を見つめる上で最適の一冊が先ごろ集英社から発刊された。森保監督をサンフレッチェ広島に導いた最大の恩師である、今西和男サンフレッチェ広島元GMの軌跡を記した「徳は弧ならず 日本サッカーの育将 今西和男」(木村元彦著・本体1800円)。
そこにはこの先、”代表監督”の椅子を争うことになるであろう川崎フロンターレ・風間八宏監督らについてのエピソードも盛り込まれている。もしも番組が前後半モノであれば、今西和男氏の”証言”なしに森保特集は成り立たないはずだ。
同書は広島の書店調べでベストセラーにもランクインしていた。夏休み最後の一冊として、「仕事の流儀」を見たあとに読めばさらに今、サッカー界で活躍するサンフレッチェ広、「紫色」の輝きを放つ幾多の指導者たちがさらに身近な存在になるに違いない。
関連書籍
サンフレッチェ広島のサッカー育成メソッド
NHKの顔のひとつ、「プロフェッショナル」の番組の「流儀」は、その回ごとに「プロとは?」との問いへの答えを出してエンディングを締める、というスタイルにある。
そこにスガシカオさんの名曲がシンクロすることで視聴者はあすへの勇気を感じ、その強いメッセージ性に自分自身を重ね合わせる。
当たり前だが「流儀」は「奥義」ではないのですごいことを語る人はそうはいない。我々、一般人でもやろうと思えばいつでもできる。ただ、それが続くかどうか…。人生は、戦いは、長く厳しい…。
今回の、森保監督のエンディング…
そこではこの番組でただ1度だけ、SE(環境音、ドラマの背景に流れる音など)が「生かし」になっている。ちょうど「僕らの希望の…」の歌詞にかぶせてある。
SE・ONは「黙とう…」
ピッチとスタンドで黙とう(画像提供・サンフレッチェ広島)
(画像提供・サンフレッチェ広島)
被爆71年にあたり「One World.One Ball.One Peace.スポーツができる平和に感謝」のスローガンのもと、サンフレッチェ広島では8月6日のホームゲーム、名古屋グランパス戦で様々な平和イベントを開催。「祈りの光」と称した6本の光のアーチは、鎮魂の想いとともにエディオンスタジアム広島から広島市中心部へと続いた。
それはサンフレッチェ広島のJ発足以来初となる8月6日、ホームゲームでのスタジアムの風景…。
スポーツは、サッカーは、そして五輪は平和の証。森保監督も長崎生まれだし、今西氏は実際に広島市内で被爆して足に傷も負っている。
サンフレッチェ広島が「広島」である意味と意義を、けっきょくよく理解していないと「育将」も、その元で育つ「名将」も生まれない。 地元と深く関わりながら世界にも繋がる広島サッカー史の価値を、広島市民・県民はもとより、地元企業も行政サイドも、もっといえば国家レベルでももっともっと深く理解、し咀嚼する必要がある。
そして広島にかかわるずべての人が「プロフェッシナル」の意識を持つことの大切さを、この先も続くこの物語は、我々に伝えようとしている。
広島新サッカースタジアム取材班