画像はベルリンのマチナカにあるサッカーグラウンド、後方に高さ368メートルのテレビ塔が見える(ひろスポ!ドイツ取材班撮影)
広島市中区の中央公園に新サッカースタジアムを建設するための基本計画案とりまとめの参考にしようと、広島市では11月22日から30日の日程で海外視察を組んだ。
現在、視察は順調に進んでいるものと思われる。
11月20日、広島市の都市活性化特別委員会が開催され、委員から海外視察に関する質問以外にも大まかにまとめると次のような声が上がった。
・中央公園がスタジアムを南北軸でレイアウトするには「狭小」なことについて
・松井市長が1億円を目標にした寄付が短期間で目標額をクリアした、その後をどうするかについて
・スタジアム駐車場、サブグラウンドについて
・施設の管理・運営も含めて公と民でどう分担するのかについて
・190億円という数字が出ている建設費について
・スタジアム建設には反対の立場を変えていない基町地区住民に関することについて
…等々
そもそもこの新スタジアム建設計画はいくらかかるのか?あるいはいくら出せるのか?肝心要の部分が”ない”。
資金計画もいまだに明らかにされていない。
秋葉前市長の時代から言われ続けている新サッカースタジアム問題。松井市長に代わってからでもすでに8年半年が経過しているにもかかわらず、である。
「多機能」「複合」というからにはスタジアム本体以外にもハード面の整備に資金が必要だろう。そしてこれまでも、今も、これからも様々な場で指摘されている、指摘されることになる「アクセス整備」が大きな課題になってくる。「世界に誇る」、ためには何十億円もの大金が必要になる。
誤解を恐れずに言えば、今の中央公園は陸の孤島、だ。それは中央公園に雨の日も雪の日も朝夕の渋滞時も日曜休日も通い続ければ分かることだ。
委員らの質問に対して北山孝文スタジアム建設担当課長は「平成29年12月に(広島みなと公園、旧広島市民球場跡地、中央公園の3つの)候補地比較の図面を引いた際、190億円という数字が出た、本体172億円、歩道橋に12億円、公園整備に6億円」と説明した。
ただし「平成27年当時の建設単価だった」「現在、(スタジアム整備の)内容も事業費も再算定しているところ」と話し「190億円」はすでに過去の数字である、との認識を委員らに伝えた。
そんなやりとりの中で三宅正明委員(自民党・保守クラブ)が「じゃあ、190億円より多いのはいいのですか?」と質した。
その答えは「これから(基本計画を策定する中で)いろいろ機能を入れる時、民間活力の導入をどうするか、事業費が大きく膨らまないようにしたい」だった。
その際、三宅委員は、「90億円でできる」と広島市が基本設計前から完成後も言い張った新球場(マツダスタジアム)の例を引用して、正確かつ具体的な情報を市が提供しなければ「議論のしようがない」と指摘した。
すでに明らかになっているとおり、マツダスタジアムの建設には100数十億円が投じられている。
「90億円では無理」と当時の専門家や市議会がいくら指摘しても広島市が「90億円でできる」と言い続けた(現在でもそのスタンスのままだ)のには訳がある。
2004年、近鉄球団の消滅が「カープ消滅」に飛び火することが確実になったことを受けて尻に火がついたほとんどの関係者が「現在地(現在の旧広島市民球場跡地)建て替え」を支持、広島各界のトップ同士(新球場建設促進会議)の決定事項は「現在地建て替え」だった。
ところが当時の秋葉市長は「現在地建て替えが140億円かかる」として「貨物ヤード跡地(現在のマツダスタジアムのある場所)」への新設を唐突に表明、反対する財界などを押し切った。2005年夏の話だ。
ちなみにこの時、秋葉市長は「跡地に年間150万人集客の施設を作る」と市民に約束して強行突破を図った。それが今でも野ざらしのライトスタンドなどとともに残された旧広島市民球場跡地ということになる。
だが、あとの祭りである。秋葉市長はもういない。(本通を涼しい顔?で歩いているのを見かけたことはあるが…)
実際、新球場建設費は90億円を大幅にオーバーした。
カープ球団の”守備範囲”(専用ロッカールーム、トレーニング施設、球団事務所ほか)は球団負担となり20数億円を要した。しかしこのことは公式には発表されていない。
コンコースにあるショップの内装などはテナントが負担した。スタジアムコンコースに繋がる数億円が投じられた大型スロープは「球場ではなく道路整備」として90億円とは別会計扱いになった。これもそうだ。
三宅委員はそれらの過去を踏まえて「じゃあ、190億円より多いのはいいのですか?」と先制口撃!?
元田賢治委員(自民党・保守クラブ)も広島市の過去について、広島広域公園陸上競技場(現エディオンスタジアム広島)の過去を引用した。
「スタジアムを作るとなると、広島市は前に一度失敗しています。屋根架けに100億円かかるからと断念した。過去の例もよく見極めて最終的にはそこをしっかり踏まえてどうするのか。紙屋町、八丁堀との動線もどう考えるのか?」
マツダスタジアムはその躯体を支える杭の問題も含めて表に出ていない”失敗の構図”が数多く残されているが、広島広域公園陸上競技場の過去にも”反省の歴史”がある。
広島広域公園陸上競技場は一般公募により広島ビッグアーチと呼ばれていた。1992年完成。1994年の広島アジア大会に向けて作られた。
だが、この「ビッグアーチ」が致命傷になった。1996年12月、広島市は当確とされていた2002年日韓共催ワールドカップの開催都市に選ばれなかった。理由は規定の「屋根架け」をしないと広島市がFIFAに返答したから。当時の平岡市長は「傘をさしてサッカーは観戦できる」との見解を示した。
トップがこうだと市民は悲劇だ。広島だけではない。中四国地方の複数の都市も「広島が手を上げるのなら」と候補地争いを回避した。自分の市だけのこと、では済まされなくなる。それは今回の新サッカースタジアムも同じだ。
つけ加えるなら、平岡市長はきっちり日韓共催W杯を観戦に訪れたという。最後まで市民の神経逆撫で、である。
広島アジア大会とW杯開催都市決定の間にはたった2年しかない。その2年先をしっかり見据えなかった広島市はメインスタンド側に中途半端なアーチ状の屋根だけをかけて、ものの見事に「失格」の烙印を押された。
その直後、アストラムラインで広島広域公園に向かう川淵三郎チェアマン(当時)にひろスタ!特命取材班はテレビカメラとマイクを向けたことがある。
窓の外に見えてきたビッグアーチを眺めて川淵チェアマンはこう言った。
「アーチ…あれは無用の長物だね、他の都市はしっかりとスタンドを屋根で覆う設計になっている。広島はどうしてあんなことになったのか」
日韓W杯は当時の日本サッカー協会、長沼健会長の尽力によって実現した一大ムーブメントだった。元田委員もそのことを知っているから「長沼会長」に触れながら新サッカースタジアムの”未来”を案じ、そう尋ねたのだろう。
マツダスタジアム、エディオンスタジアム広島…行政任せにしていると、取り返しのつかないことになる。
例えばリニューアルオープンした広島平和記念資料館本館のあの展示方法、あれなど行政任せにした典型的な大失敗例だろう。
11月20日の都市活性化特別委員会では、各委員から詳細な部分に至るまでの指摘や質問が相次いだ。
北山孝文スタジアム建設担当課長はそれぞれ、そつなく答えてはいたが、傍目には”その場しのぎ”の回答がずいぶん多いように感じられた。
中でもスタジアムの規模について聞かれた時の答弁はその場を取り繕うためではあるのだが「虚偽に近い」とこちらが感じるものになっていた。
そうスタジアムの収容人数は3万か、4万かという話になった時のこと、である
(この項つづく)
ひろスタ!特命取材班
広島市海外視察(11月22日~30日)訪問先
オランダ
ヨハン・クライフ・アレナ(アムステルダム)
名門、アヤックスのホームスタジアム。旧アムステルダム・アレナ。1996年開場。約5万4000人収容で規模はオランダ最大。スマートピッチ監視システム採用。世界でも類を見ない独自の最先端システムでとされるピッチの状態と品質を常時監視する。
2008年、Jリーグが「欧州におけるサッカースタジアムの事業構造調査」を実施した際、対象になった。それによるとスタジアムは新設で204億円。民が44%、公が30%負担。施設所有はSPC(管理は第3セクター)で売り上げ50億円でサッカー70%。7期連続黒字。立地はマチナカではない。市の再開発計画がスタートであり、都市の再開発と連動した成功例。
フィリップス・スタディオン(アイントホーヘン)
PSVアイントホーフェンの本拠地。1913年開場で再三、手が加えられてきた。約3万6500人収容。やはりJリーグの2008年調査の対象スタジアム。その資料によると、クラブ主導型で建設。建設費約274億円はクラブ負担。土地もクラブ所有。クラブ親会社で照明分野で世界的に知られるロイヤル・フィリップスの競技場用LED照明器具「ArenaVision LED」を完全装備。これにより、コンサート、サッカー競技での特定のピッチ演出などが可能になった。メンテナンス、コスト面でも優れる。
ドイツ
エスプリ・アレナ(デュッセルドルフ)
こちらはJリーグ欧州スタジアム視察2017の対象スタジアム。開場は2004年、収容人数は約5万4600人、所在地デュッセルドルフの人口約60万人。1974年西ドイツ・ワールドカップなどで使用されたラインシュタディオンを解体して建設された。デュッセルドルフのホーム。
Jリーグ資料によると、建設費約232億円。デュッセルドルフ市が所有。ホテルとの複合でメッセ施設併設、屋根は開閉式。地下鉄駅直結。中央駅から地下鉄で18分。チケットがあれば無料。デュッセルドルフ空港から車で10分、高速道路、バスのアクセスも抜群。駐車場22,000台。スタジアムそばにクラブ練習用グラウンドもある。コンサート、ボクシング、マラソン、パブリックビューイングなど幅広く行う。
スタジアムの運営には市が50%出資。残りはメッセ運営会社が出資。クラブは試合日にスタジアムを借りる形。
広島が参考にすべき点が山盛りか?サンフレッチェ広島のスタジアム総合戦略推進室長 信江雅美氏も17年の視察で現地を訪れている。
バイ・アレナ(レバークーゼン)
1958年建設。レバークーゼン本拠地。スタジアム内にホテル、レストランなど。2006年FIFAワールドカップの会場候補に名乗りを上げたが、起点の4万人に満たないため断念。その後、2008-2009シーズンに改装工事が行われ、7000万ユーロを投じて収容人員は約22,500人から3万に引き上げられたという、チグハグな過去を持つ。2011年FIFA女子ワールドカップを開催。UEFAチャンピオンズリーグ2019-20平均入場者は2万6592人で32クラブ中29位。アヤックスは5万1962人で9位。
イギリス
トッテナム・ホットスーパースタジアム(ロンドン)
イギリスのスタジアムの中では高い評価。トッテナム・ホットスパーFCの新本拠地。2019年4月供用開始。ロンドン貧困地区に巨費を投じて新スタジアムで街を蘇らせる…総工費約1430億円。出資元はバンク・オブ・アメリカ・メルルルンチ、ゴールドマンサックス、HBSC。収容人員は約6万2000人。故にアクセスはノーグッド。アメフットでも使用されることで稼働率アップ、収入アップを目指す。また様々な仕掛けで来場者の滞在時間を長くさせ消費を促す。
スタンフォード・ブリッジ(ロンドン)
世界のサッカークラブランキングでトップ10に名を連ねるチェルシーFC本拠地。1877年開場。収容人員は約4万2000人。スタジアム周辺はチェルシービレッジとしてホテル、SC、レストラン。地下式の巨大グッズショップもある。複合スポーツ施設で試合のない日も稼働する。所有権を有するチェルシー・ピッチ・オーナーズは1970年代、財政難に直面したクラブを救済するため立ちあがったサポーターたちによって結成された非営利団体。アクセスは、地下鉄駅そば。平均入場者数は常に約4万1000人。
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