トップ画像はFISE WORLD SERIES HIROSHIMA2018から
旧広島市民球場跡地の活用策がとうとう決まって“しまった”。
なぜか8月6日を目前に控えたバタバタの8月3日に、有識者で構成された広島市の審議会が市役所に松井市長を訪ね、答申したからだ。
秋葉忠利前広島市長の時代からずっと取材を続けてきた旧広島市民球場とそのあと地。廃墟の街から甦った広島市民の、希望の光だったこの空間を未来にどう繋げていくか…
2005年6月、当時の秋葉市長が新球場(マツダスタジアムのこと)建設候補地を突然、旧広島市民球場跡地から貨物ヤード跡地(現在のマツダスタジアムのある場所)に変更した。地元財界も多くの関係者も寝耳に水のパワープレーだった。
様々な声が上がる中、広島市では2005年11月から2006年1月にかけて市民や民間から活用策を広く募集した。
それから紆余曲折あって、中でも新サッカースタジアム建設の必要性を訴える声が高らかに上がっていたのを広島市の意向で“強制終了”させるという過程を経て、けっきょく16年もかけて行き着いた先は何の変哲もない、広大な敷地のところどころにテントや屋根やステージ、木造低層物販施設のあるイベント広場だった。
ネット上には疑問の声が多々上がっている。長い時間をかけてこれはいったいどういうことなのか、と…
秋葉市長は新球場建設場所変更を発表した際、その条件として旧広島市民球場跡地には「年間200万人収容の施設」を作ると約束した。
それは当然ながら旧広島市民球場に替わる、そしてそれ以上に市民県民に向けて持続可能なサービスを提供し続けるものでなくてはならない。作るのは「公園」ではない。「施設」だ。
今回発表された跡地整備プランは、NTT都市開発、広島電鉄、中国新聞社、広島バスセンター、大成建設中国支社など9社による企業グループの提案だ。
広島市では3月から6月にかけて事業者を公募したが応募はこの企業グループだけ、だった。
この盛り上がりに欠ける流れは使い勝手の悪すぎる不評の広島空港民営化の際の、事業主体決定のケースに酷似している。
2020年8月の末、この時点で1年後の7月に予定されている広島空港の民営化で、国土交通省による運営事業者の公募に応じた三菱地所(東京)などのグループが審査を辞退した。
この判断は妥当だろう。1993年開港の施設は周辺も含めて老朽化が進み、もとから搭乗者数が多くないのにそこにコロナ禍が直撃した。ターミナルはガラガラでとても利益が上がる構造に転換できそうもない。
ところが2020年11月には三井不動産(東京)が代表の企業グループが国土交通省と基本協定を結んだ。その計画によれば年間の路線数と乗客数をコロナ禍とは無縁だった2019年のそれぞれ2倍近くに引き上げるのだという。
もちろんその可能性はゼロではない。しかし1993年の開港以降、およそ20年を費やし、せいぜい50万人程度の上積みしかできていない、2019年度で乗客数297万人の全国的に見ても20番め程度の魅力しかない空港を、どうやれば2倍規模にできるのか?しかも達成は2050年度。気が遠くなるような数字で現実味がない。
開港当時、広島県は空港周辺に企業群が立地し、人もモノも空港を介して活発に動くバラ色の青写真を描いていた。だが、今はほんの一握りの企業しか空港立地を生かせず、わずかに“集客”に寄与していた地方競馬場外馬券場施設ですら2020年8月31日をもって閉鎖された。もちろん、この大きな失敗の責任を取る者はいない。
それと似たような匂いが今回の旧広島市民球場跡地活用策にも漂ってはいないか?
広島空港と旧広島市民球場跡地では立地においては比べ物にならない。だからと言って必ず、今回のプランが成功する訳ではないし、たぶん、失敗するだろう。
今回の9社による企業グループの提案では年間の集客数が示されていない。代わりに「1000人以上を集客するイベントを年90以上開く」となっている。
1000×90イコールたったの9万人だ。お客の入らない時代のカープでも旧広島市民球場で年間100万人を動員していた。
「年間200万人」を秋葉市長が公言した当時、関係者から疑問の声が相次いだ。その際、市の担当者からは、すでに跡地周辺で開催されていた広島フードフェスティバル3回分に過ぎない」という声が上がっていた。
この発想はとんでもない思い違いと言っていい。
かつての旧広島市民球場周辺はカープ戦が1万人から3万人のファンを年間70試合以上集めることによって一定の“人流”をある時間帯に限定して生み出していた。いわゆるシャワー効果の水平方向版だ。
フードフェスティバルは3日間でおよそ80万人を動員するが、それではダメなのである。
一方で「1000人」程度のイベントでは周辺の商業施設には何の恩恵もない。カープがマツダスタジアムに転出して以来、じり貧状態の紙屋町地下街シャレオは100万都市のヘソにも関わらずシャッター通りと化し、空きテナントを埋めるのに「シャレオ」の響きとは無縁のブースが次々に誕生する異常事態となっている。こうした中心部の弱った足腰を鍛え直すには大きな人の流れが必要だ。広島グリーンアリーナでの音楽イベント、新サッカースタジアムでのJリーグその他サッカー競技、それらとの相乗効果をどうやって創出していくか?
実はこうした状況が長らく放置されたままの広島都心部に関して危機感を募らせてきたのがほかでもない、旧広島市民球場跡地と運命共同体の基町クレド、イコールNTT都市開発やバス利用客減少に苦しむ広島バスセンター(広島市と各バス会社出資の第3セクター)などなど…ということになる。
他地域と競争して利益を上げ、社会貢献していくのが企業。その機会が旧広島市民球場跡地という世界的にも稀有な一等地の塩漬けにより長らく失われたまま、気が付くと広島市のど真ん中はスカスカに…。広島市内商業圏で見る買い物客の支持率で見ても八丁堀、紙屋町地区の相対的地位の低下は明らかでそこにコロナ禍、という流れになった。
今年の4月には広島ガス、広銀ホールディングスなど37社で構成する広島都心会議が発足したのも危機感が具体化したものだろう。ただしこうなってくると“船頭多くして”も心配しなくてはいけなくなる。
このように、企業サイドは様々な機会に行政サイドに働きかけを行っているがその都度、その会合ごとにその声がバラバラに残されるだけで、一本芯の通ったものにはなりにくい。結果、企業側としては行政サイドとのコラボで活路を見出したい一方で、費用対効果を重要視するから投資額も抑える必要があり、今回のような生煮?パースを発表するしかない、おそらく不本意な結論に至ってしまう。
分かりやすいのが広島中央公園に建設中の新サッカースタジアムと、旧広島市民球場跡地活用策の棲み分け。ほぼ同時に別々の諮問機関や専門会議が複数存在する中でバラバラの議論が行われてきた。
新サッカースタジアムに隣接の広島城の今後を探るプランも別の専門家から出されており、それぞれにふさわしい機能と互いに補完し合う機能をどう構築していくか?一番大事なところを話し合う場がない。サッカースタジアム建設に関しても、まさに今回の旧広島市民球場跡地プランと同じような青写真がすでに固まり事業者選定が進められている。おんなじようなものが徒歩5分圏内にふたつ…。何でこうなるのか?
けっきょく旧広島市民球場跡地はどうすべきだったのか?
その答えは市民からの声が最も強かった(ひろスポ!調べ)新サッカースタジアム建設、もしくは今回の東京五輪で脚光を浴びたアーバンスポーツ、エクストリームスポーツの聖地、だろう。
特にこの日、無敵艦隊スペインの前に延長の末、0-1で敗れたサッカーU-24代表の森保一監督はサンフレッチェ広島監督当時、長らく旧広島市民球場跡地へのスタジアム建設に声を上げていた。平和、スポーツ、サッカー、子どもたちの笑顔、といいう考えがそのベースある。
もうひとつのアーバンスポーツ。実は広島市には先見の明があった。
世界トップクラスのアーバンスポーツ選手が一堂に会し、各国都市を回りながら競い合う都市型スポーツの祭典「FISE WORLD SERIES HIROSHIMA」を旧広島市民球場跡地で2018年、19年と2年連続で旧広島市民球場跡地開催、期間中はいずれも大変な賑わいとなった。
これは東京五輪開催で会場確保が困難になった首都圏の代替会場として平和都市広島に白羽の矢が立ったものだった。
大会は2年連続で大成功。しかも日本最年少金メダル、スケートボード女子ストリートの西矢椛選手も、同じく東京五輪銀メダルの中山楓奈選手も参加して1位、2位に輝いている。
旧広島市民球場跡地はすでに東京五輪前からアーバンスポーツの聖地、だった。
今回、示された旧広島市民球場跡地活用策のパースを見ると幸いにも?固定施設は敷地の周囲に点在し、中心には簡易な屋根しかなさそうだ。
これらを全部やめにして、有明アーバンスポーツパークに負けない国内トップレベルのアーバンスポーツ×平和の聖地を常設して、世界中の人たちが交流する風景を作り出す。
東京五輪のレガシーを広島へ…
実際、「FISE WORLD SERIES HIROSHIMA2022」が2022年3月25、26、27日には旧広島市民球場跡地で開催されることがすでに発表されている。
あとは今回、審議会で了承された企業グループがどう動くか…。23年3月の開業に向け、十分、修正・調整が利くのではないだろうか?
広島スポーツ100年取材班&田辺一球
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